運転中のスマホ使用を禁止するには、誰が馬を連れ出したのかを知るためには、それぞれ何を証明すべきか?【前件肯定・後件否定】

議論
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 今回のテーマは「前件肯定・後件否定」である。引用から話を始めよう。ちなみに、今後、「文章p」を「前件」、「文章q」を「後件」と呼称することになる。このことを覚えておいてほしい。

ルール22:前件肯定

 二つの文章をpとqで表すと、演繹的論証の最も単純な形は、次のようになる。

 (前提1)もし「文章p」ならば「文章q」である。

 (前提2)「文章p」である。

 (結論)それゆえ、「文章q」である。

 もっと簡単に言えば、

 もしpならばqである。

 pである。

 それゆえ、qである。

 これは前件肯定と呼ばれる推論形式だ。

 この論証をさらに発展させるには、二つの前提についてそれぞれ説明し、正当性を主張しなければならない。前件肯定はそれぞれの前提を最初から明確に提示する方法である。

(アンソニー・ウェストン著・古草秀子訳『論証のルールブック(第五版)』(ちくま学芸文庫、2018年) p94~p95)

 前回の記事「演繹的論証とは?」において演繹的論証の基本的な説明をしたが、今回から数回に渡って演繹的論証のいくつかの形態について説明していく。上記の引用にある「前件肯定」は最も基礎的な演繹法の形態である。

 前回にも説明したが、演繹的論証とは、「前提が真実であれば結論も真実に違いないというかたちの論証」である。上記の前件肯定における「もしpならばqである」という前提と「pである」という前提がそれぞれ真であることを証明しさえすれば、「qである」という結論を導き出すことができる。前件肯定においては「文章q」という結論が最初から前提に組み込まれている。これが演繹的論証の基本形である。

 また、引用元では例が挙げられている。その例を、少しばかり言葉を足して以下で紹介する。

(前提1)もし運転中に携帯電話を使うと事故が多くなるのであれば、運転中の携帯電話使用を禁じるべきだ。

(前提2)運転中の携帯電話使用は事故を多くする。

(結論)それゆえ、運転中の携帯電話使用を禁じるべきだ。

 最初に挙げた引用における表現に則るのであれば、(前提1)の「もし運転中に携帯電話を使うと事故が多くなる」は「文章p」で、「運転中の携帯電話使用を禁じるべきだ」は「文章q」である。「文章p」が真であることを(前提2)において証明することで、直接的に「文章q」という(結論)を得ることができる。

 ちなみに、前件を否定(前件否定)することは演繹的論証としても論理としても誤りである。「文章p」を否定すると、「文章q」という結論に達し得ない。上記の例の場合で言えば、「運転中に携帯電話を使っても事故は多くならないので、運転中の携帯電話使用を禁じるべきだ」という内容になってしまう。理由と結論との論理的なつながりが明らかに不適切である。携帯電話を使用しても事故が多くならないのであれば、運転中に携帯電話を使用しても別に構わないはずだ。

 続いて、「後件否定」という形態も見てみよう。

ルール23:後件否定

 第二の演繹的論証は、後件否定である。

 (前提1)もしpならばqである。

 (前提2)qではない。

 (結論)それゆえ、pではない。

 ここで、「qではない」は単にqの否定、すなわち「qは正しくない」という文章を意味している。と同時に、「pではない」も意味している。

(アンソニー・ウェストン著・古草秀子訳『論証のルールブック(第五版)』(ちくま学芸文庫、2018年) p96~p98)

 後件否定も前件肯定と仕組みは同じである。引用元で例が挙げられている。その例を紹介する。

 馬小屋には犬がいた。にもかかわらず、だれかがやってきて馬を連れだしたというのに犬は吠えなかった。明らかに、やってきたのは犬がよく見知っている人間だ。

 この例文を分かりやすくすると、以下のようになるだろう。

(前提1)もし見知らぬ人間が入ってきたら、犬は吠えたはずだ。

 (前提2)犬は吠えなかった。

 (結論)それゆえ、来訪者は犬にとって見知らぬ人間ではなかった。

 この例においては、(前提1)の「見知らぬ人間が入ってくる」がp、「犬は吠える」がqである。(前提2において)qを否定することで、「見知らぬ人間ではない」という(結論)を得ることができる。

 後件を肯定(後件肯定)することもまた誤りである。qを肯定しては「pではない」という結論は得られない。上記の例においては、「犬は吠えたので、来訪者は犬にとって見知らぬ人間ではなかった」という内容は、「もし見知らぬ人間が入ってきたら、犬は吠えたはずだ」という前提に真っ向から反してしまう。この場合は、「誤った推論」をしていると言えるだろう。

 ちなみに、上記の例が、あらかじめ想定していた結論(見知らぬ人間ではなかった)を裏付けようとするものである場合、「犬は吠えたので、来訪者は犬が見知った人間だった」と妥当な推論で結論を導き出したとしても、それは、想定していた結論とは異なるものである。この場合は、推論自体は合っているが、「誤った前提」を定めている可能性を指摘できるだろう。

 つまり、未知の結論を得る(答えを出す)ために前提を定めてから推理・推論を始めるのか、想定している結論を裏付けるために論証を始めるかによって二種類の誤りが考えられるのだ。qを肯定しては「pではない」という結論は得られないし、(「pではない」という結論を想定しているのに)「pである」という結論が得られるのであれば、前提が誤っている可能性がある。

 今回は「前件肯定」と「後件否定」について述べた。両者を混同しないように気を付けよう。前件を否定したり、後件を肯定したりするのは論理的に誤りであるので、このことはしっかりと頭に入れておこう。

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