【議論チェック】北京オリンピックのボイコットに関する日本の立場

　バイデン米大統領が2022年北京オリンピックの「外交的ボイコット」について検討すると発言した。それを受けての岸田首相の発言を報じたニュースがあった。

　このニュースに対するコメントで以下のようなものがあった。

　「甘やかしすぎ！」「つけあがらせる」「毅然とした態度」「全方位抱き着き外交」など、感情的で曖昧な表現が多用されていることが分かるだろう。

　感情的な表現や曖昧な表現を多用しても、主張に説得力を与えることはできない。

　「甘やかす」とは、相手に対して何をして、相手がどのような状態になることなのか？

　「つけあがる」とは、どのような状態のことなのか？

　「毅然とした態度」とは、どのような態度のことなのか？

　「全方位抱き着き外交」とはどのような外交なのか？具体的にどのような外交政策がそのような政策であるとみなすことができるのか？そもそも「抱き着き」とは何なのか？「抱き着き」は、どのような言動を指している表現なのか？

　以上のことを明確にするべきであろう。そうすれば、主張の説得力も増すであろう。

　ちなみに、「阿部時代」は「安倍時代」(おそらく安倍晋三の首相在任期間のこと)の誤表記と思われる。第36代首相(1939～1940年)の阿部信行の在任期間を指して「阿部時代」と述べているわけではなさそうだ。

　感情的な表現という反則とその類似の反則については以下の記事においても述べているので、是非ご覧ください。

ぶぶ漬けを勧められても帰らずに食べる。【感情的な言葉の使用と他者の意見の変形は禁止】 | ギロンバ-議論場- (gironba.com)

感情的な言葉遣いではなく中立的な言葉遣いを/とある政治家の構文【感情的意味合いの強い言葉/単なる再記述】 | ギロンバ-議論場- (gironba.com)

　また、上記のコメントに対して以下のような返信があった。

　このコメントにも感情的な表現が多用されているが、特筆すべきは ”レッテル貼り” も多用されていることである。

　「努力してきたスポーツ選手だけを犠牲にしてもOKだと思うんだろうな？」という表現自体がそもそも否定的な感情を煽り立てるようなものであるが、このコメントにおいては、外交的ボイコットによって自国のスポーツ選手をオリンピックに参加させないべきだという意見に対して「戦時中のような意見」という(人々に否定的なイメージを喚起する)レッテルが貼られている。

　つまり、自分と異なる意見に「戦時中のような意見」というレッテルを貼ることによってその意見を貶めているのだ。そして、自分の意見の見栄えを相対的に良くしようとしているのだ。

　このコメントにおいては他にもレッテル貼りが見られる。

　外交的ボイコットによって自国のスポーツ選手をオリンピックに参加させないべきだという意見を持つ人のことを「テロリスト的単純思考で自分の意見の為には他人を犠牲にしても良しな人」呼ばわりして、そのような人が増えていることをもって「論理的思考が出来る人が減って」いるという。

　つまり、自分と異なる意見を持つ人に対して、「テロリスト的であり、自分の意見のために他人を犠牲にすることを厭わず、論理的思考ができない人」というレッテルを貼っているのだ。

　このコメントは「レッテル貼り」の教科書的例であろう。そして、とても悪質な「レッテル貼り」である。「人身攻撃」、「井戸に毒を入れる」、「説得定義」、「かかし論法(ストローマン論法)」でもあるだろう(これらの反則については以下に掲載する記事を読んで頂きたい)。

　無論、「レッテル貼り」は詭弁・誤謬の一つである。つまり、反則であり禁止事項である。

　「レッテル貼り」とは、論の内容に対して言及するのではなく、レッテル(人々に否定的なイメージを喚起する表現や属性)を論そのものや論者に負わせることで、その論を否定しようとする反則である。

　「レッテル貼り」とレッテル貼りのいくつかの形態については以下の記事においても述べているので、是非ご覧ください。

「レッテル貼り」「井戸に毒を入れる」について

反対意見を言おうとする人にレッテルを貼らない/くしゃみは落雷の原因と言えるか？【井戸に毒を入れる/前後即因果の誤謬】 | ギロンバ-議論場- (gironba.com)

恋は盲目、憎悪も盲目、魔女狩りは終わらない【万能なレッテル貼り】 | ギロンバ-議論場- (gironba.com)

「人身攻撃」について