独りでは何も知れない。語れない。【情報源の引用は不可欠だが、危険なので慎重に】

議論
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 今回のテーマは「情報源の引用は不可欠だが、危険なので慎重に」である。引用から話を始めよう。

権威による論証

 何でも全て自分で直接に体験して、その道の権威になれる人などいない。過去へ遡って生きるのは不可能なのだから、昔の女性の結婚適齢期が何歳なのか自分で確かめることはできない。衝突事故に遭っても一番安全なのはどの車か、判断できる経験を持つ人はほとんどいない。スリランカにしろ州議会にしろ、ひいては小学校の教室にしろアメリカの街角にしろ、そこで実際にどんなことが起きているのかを直に知ることは難しい。

 そのため、私たちは他者に頼らなければならない。例えば専門家や研究機関や調査や参考文献などに頼って、森羅万象についての必要な知識を語ってもらわなければならない。私たちはこんな具合に論じる。

 X(知識を有するはずの情報源)によればYである。それゆえ、Yは真である。

 だが、他者に頼るのは危険の多い方法でもある。その道の権威とされる人が自信過剰かもしれないし(彼らも人間だから)、間違った方向へ導いているかもしれないし、そもそも信頼に値しないかもしれない。

(アンソニー・ウェストン著・古草秀子訳『論証のルールブック(第五版)』(ちくま学芸文庫、2018年) p62~p63)

 たしかに、どんな場所であれ、どんな場合であれ「実際にどんなことが起きているのかを直に知ることは難しい」。我々一人一人の視点や視野や知見は限られ、一次情報(自分で直接的に経験して得た情報や自分で実際に調査して得た情報)を得るには物理的な限界がある。

 それゆえに「私たちは他者に頼らなければならない。例えば専門家や研究機関や調査や参考文献などに頼って、森羅万象についての必要な知識を語ってもらわなければならない」。すなわち、我々が何かを論ずる際には二次情報(他者の一次情報)に頼らざるを得ないのである。

 しかし、二次情報の情報源は慎重に丁寧に選りすぐらねばならない。なぜなら、信頼・信用に値しない情報源や信憑性について疑問符が付される情報源が世の中には山ほどあるからだ。特にインターネット上には、専門家の皮を被った素人の裏付けのない「それっぽい」言葉や情報が山ほどある。「論」という名目で書かれているが論証の体を成していない文章もたくさんある。

 しかも、「その道の権威とされる人が自信過剰かもしれないし(彼らも人間だから)、間違った方向へ導いているかもしれないし、そもそも信頼に値しないかもしれない」のだ。権威のある情報源が発信している情報だからといって真実であるとは限らない。

 他者の情報に頼ること、すなわち引用することは、何かを論ずる上で必要不可欠なことであるにもかかわらず、「危険の多い方法でもある」のだ。情報の扱いには細心の注意を払わなければならない。

 ここで、引用を加える。

ルール13:情報源を明記するーきちんと裏付ける

 事実に言及する場合、それが事実であることが明白だったり誰もが知っているために裏付けを必要としない場合もある。しかし人口についての正確な数字などは、情報源の引用が必要である。

 女よりも男の方が化粧や衣装で飾り立てる風習を持つ人々がいると、何かで読んだことがある。

 男女の性別による役割分担(ジェンダー・ロール)が、世界中どこでもアメリカと同じであるかどうかについて論じたいなら、これは異なるジェンダー・ロールの存在を示す例として適切である。しかし、そうした実例を身近に知っている人はほとんどいないだろうし、おそらく多くの人にとっては驚きであり、ありそうにないことだと思われるだろう。論証を揺るぎないものにするには、きちんとした情報源の引用が必要だ。

 引用の形式は実に様々だが、どんな形式であれ、誰もが容易にその情報源に辿り着ける基本的な情報をおさえてあれば十分だ。

(アンソニー・ウェストン著・古草秀子訳『論証のルールブック(第五版)』(ちくま学芸文庫、2018年) p64~p65)

 引用の通り、情報源を明記することによって裏付ける必要のない事実もある。「それが事実であることが明白だったり誰もが知っている」事実であったり、議論や主張の論点・本筋とはみなされない事実は情報源を明記する必要がないだろう。提示する全ての情報を裏付けていてはキリが無い。

 ただ、もし、あなたの提示した事実を裏付けることを他者から請われたのであれば、裏付ける必要があるかどうかを再び検討し、必要な場合には引用によって情報源を議論に公開するべきである。

 一方、情報源を明記し裏付ける必要がある事実とは、「人口についての正確な数字など」や議論参加者が知らないであろう知識・研究といった事実である。

 ここで言う「議論参加者が持っていないであろう知識・研究」については、上記の例を読んでもらうと分かりやすいだろう。この例はアメリカの事情に基づいたものであるが、おそらく日本についてもアメリカと同じことが言えるのではないかと思う。私個人は知見が狭いので、恥ずかしながら「女よりも男の方が化粧や衣装で飾り立てる風習を持つ人々がいる」ことを知らなかった。もし、私のようにこのことについて知らない者が多く参加していると予想できる議論では、引用によって情報源を示そう。

 最後に、引用は「誰もが容易にその情報源に辿り着ける基本的な情報をおさえてあれば十分だ」ということを肝に銘じておいていただきたい。ここで言う「基本的な情報」とは、文献の場合は、書籍名・著者(・翻訳者)・出版元・出版年・引用したor参考にしたページなどであり、サイトの場合は、サイト名と当該サイトのURLなどである。詳しくは、引用のルール | ギロンバ-議論場- (gironba.com)を参考にしてほしい。

 今回はここまでだ。今回覚えておいてほしいのは「他者の情報を引用することは、何かを論ずる上で必要不可欠なことであるが、信頼・信用に値しない情報源や信憑性について疑問符が付される情報源があふれかえる世の中では、危険の多い方法でもある。情報源を明記し裏付ける必要がある事実とは、人口についての正確な数字などや議論参加者が知らないであろう知識・研究といった事実である」ということだ。

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