秩序ある冷静な議論を拒むことは人類の自殺

議論
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 今回のテーマは「秩序ある冷静な議論を拒むことは人類の自殺」である。引用から話を始めよう。なお、分かりやすくするために文言に多少の変更を加えている。

ルール45:誇りを持って論証する

 パブリック・ディベート(公開討論)は簡単ではない。様々な危険があり、確固たる根拠を共有するのは困難で、感情を煽り立てる要素も色々ある。その一方で、今こそ議論が待ち望まれていると考えることも可能だ。最良の証拠を探し、行き過ぎた一般化を避け、統計をうまく利用し、妥当な類推を利用するのだ。情報源を厳選しよう。反対意見を詳しく検討して対応し……とにかくルールの全てを実行するのだ。

 「まくし立てて意見を押し付けろ」と言っているのではない。パブリック・ディベートは世論調査の一種ではないし、論証とは単なる喧嘩ではない。理想的には、ディベートは一緒に考えるプロセスである。貢献できるディベートに参加しよう。論じるべき問題について論じるのだ。本物の証拠とアイデアを持って、それらをきちんとうまく提示するためにスキルを利用しよう。

 そして、熱意を持ってあたることを忘れずに。熱意は多くの議論を生み、明確にし、基礎を作る。困難な時代には特にそうと言える。ただ一つ重要な点は、情熱は議論そのものではないということだ。何らかの主張に強い熱意を持つこと、それ自体はその主張を信じる根拠にはならない。いくら頑強に言い張ったところで事態は改善しない。それどころか、あんなに大騒ぎしているのは根拠がないからではないかと疑われることさえある。良い論証は熱意と釣り合いがとれている!

(アンソニー・ウェストン著・古草秀子訳『論証のルールブック(第五版)』(ちくま学芸文庫、2018年) p156~p157)

 議論は簡単ではない。とても難しいものだ。「確固たる根拠」を探すのも提示するのも難しいし、しばしば感情を煽り立て合うような対立も生じてしまう。それでも我々は議論しなければならない。なぜか?世界に問題があるからだ。世界を知りたいからだ。今に限らず、議論は常に待望されている。我々人間は話し合わないと問題を解決・改善できないし、何かを知ることもできない。

 議論すること、話し合うことが「口喧嘩」になっている状態では、我々の世界はいつまで経ってもマシにならない。それどころか、そのような状態が続けば、世界はどんどん殺伐化し、互いが精神を削り合う醜悪な争いへと人々が続々と身を投じていくだけである。これは「人類の自殺」であると言っても良いだろう。秩序のある冷静な議論を拒むことは、「人類の自殺」に与することである。そのように言っても過言ではないだろう。

 我々は「最良の証拠を探し、行き過ぎた一般化を避け、統計をうまく利用し、妥当な類推を利用」し、「情報源を厳選し、反対意見を詳しく検討して対応」しなければならない。ギロンバは『論証のルールブック』という優れた書籍を参考にさせてもらいながら、適切な議論を行うためのルールや心掛けを紹介し、適切な議論を破壊するような誤謬・詭弁も紹介してきた。まずは、それらのルールや心掛けを全うしよう。そして、自らは誤謬・詭弁に抵触しないようにして、他者の誤謬・詭弁を見破れるようになろう。

 自分の意見を押し通そうとするなどもってのほかだ。論破しようとするなど言語道断だ。議論は喧嘩でも競技でもない。それゆえ、勝敗を決める必要もない。勝敗という概念は議論に不必要だ。あくまで議論は「一緒に考えるプロセス」である。

 自分の意見が通っても通らなくても、「あなたが意見を出した」「あなたが他者の意見を聴いて評価した」「あなたがみんなと一丸となって秩序ある議論を作り上げた」というだけで、あなたは議論に ”貢献” しているのだ。議論に貢献することは、あなた自身にも世界にも貢献することである。

 「自分の意見を押し通そう」という熱意、特定の主張に拘泥するような熱意は議論に不要である。「何らかの主張に強い熱意を持つこと、それ自体はその主張を信じる根拠にはならない。いくら頑強に言い張ったところで事態は改善しない」。その通りである。そのような熱意、そのような熱意の使い方は議論を破壊するのだ。自分の主張・意見のために議論してはならない。

 「世界の問題の解決・改善に寄与する!」「世界の事象についての理解を深める!」「秩序ある議論を作り上げる!」というような熱意を持って議論するようにしよう。そのような適切な熱意が秩序ある議論を作り上げ、そのような議論が広範囲に連鎖することによって議論の風土が人々に浸透し、多くの人が傷つく「困難な時代」に風穴が開く。このプロセスの始点に立っているのは我々だ。このプロセスを進めることができるのは我々なのだ。

 なんだか最終回っぽい話をしてしまったが、最終回ではない。書きたい内容に際限がないので、今後もどんどん記事を書いていくつもりだ。今後ともギロンバをよろしくお願いします。

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