Aである。なぜならBだからだ。【簡潔な結論(主張・提案)を最初と最後に述べる】

議論
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 今回のテーマは「簡潔な結論(主張・提案)を最初と最後に述べる」である。引用から話を始める。

ルール35:主張や提案は明確に

 提案をするならはっきり書こう。「何らかの対策を取るべき」というのは真の提案ではない。また、あれこれ詳細に述べる必要はない。「運転中の携帯電話使用を禁じよう」というのは明確な提案であり、同時にきわめてシンプルだ。だが、アメリカは交換留学プログラムを拡充すべきだと論じたいのならば、内容がより複雑になるので、多少の詳細が必要になるだろう。

 同じように、もし哲学的な主張をしたり、何らかの命題についての自分の解釈を擁護したりしたいのであれば、自分の主張や解釈をシンプルに書くことから始めよう。

 地球以外の惑星に生命が存在する確率はかなり高い。

 この文章は率直で明快だ!

 学術的な論文では、何らかの主張や提案に賛成あるいは反対するための論証を、単に評価することを目的とするものもある。その場合は、独自の主張や提案をする必要はないかもしれないし、延いては、明確な判断に到達するまでもないかもしれない。例えば、議論の的になっている、たった一行の論証について吟味することもあるかもしれない。そういう場合には、自分の意図を早い段階で明確にすること。何らかの考えや提案に賛成あるいは反対している論証が結論に達していないというのが、あなたの結論である場合もあるだろう。それはそれでいいが、その結論をすぐにはっきり示そう。自分の論文が結論に達していないと思われるのは望ましくない!

(アンソニー・ウェストン著・古草秀子訳『論証のルールブック(第五版)』(ちくま学芸文庫、2018年) p133~p134)

 論証文を書いたり発言したりする際には、「自分の意図を早い段階で明確にすること」によって「(あなたの)結論をすぐにはっきり示そう」。議論においては、日本語の文章構成(「BだからAである」)ではなく、英語の文章構成(「Aである。なぜならBだからだ」)を採用するようにしよう。勿論、日本語を貶める意図はないし、英語を高く評価する意図もないのだが、議論という場で論証したり発言したりする際には、英語のような文章構成の方が望ましい。なぜなら、議論においては、最初に結論(主張や提案)を述べることが望ましいからだ。

 論証や発言の最初に結論を提示してから、その結論を支持するに至った理由・過程を紹介するのだ。そうすることで、他の議論参加者が論者の意図を理解しやすくなるし、「自分が何を言っているか」ということも自分で把握しやすくなる。結論が論証の末尾にしかない論証を聴くことは聴衆にとって難しい。聴衆にとっては、論者の立場や結論が不明のまま理由を説明されても、そもそも「何の理由を語っているのか」が分からないので、理由(前提や根拠や推論)が適切かどうかなど評価しようがないのだ。当たり前だが、何の結論を支持する理由なのかも分からないまま、理由を評価することはできない。「どのような結論を裏付ける理由なのか?」ということを効果的に説明するために、結論は最初に述べてから理由を説明しなければならない。

 しかも、おそらく聴衆が最も知りたいのは「論者の結論や立場」である。それゆえ、結論より先に理由を説明されても、(結論が何なのかが気になって)その理由について真剣に聴くことができないかもしれない。散々理由を説明してようやく結論に辿り着いたとき、聴衆は論者に質問するだろう。「で、その結論に至った理由は何だっけ?」。これでは二度手間である。

 議論・論証における理想的な形を簡単に示すとすれば以下のようになるだろう。

【結論】私はAという結論を支持しています。

【理由(前提や根拠や推論)】なぜならBだと考えるからです。

【結論】以上のような理由から私はAという結論を支持しています。

 結論は最初に提示してからその結論を支持するに至った理由や過程を説明して、最後にもう一度結論を提示するのだ。二つの結論で理由を挟むのだ。

 また、主張や提案ははっきりしたものであることが望ましい。曖昧な主張や提案は結論とはみなされない場合もあるかもしれない。上記の引用内にある「何らかの対策をとるべき」というのは一つの結論ではあるかもしれないが、有効な結論ではないし評価すべき結論でもない。「何らかの対策をとるべき」と言ったところで、聴衆に問われるだろう。「で、どのような対策をとるべきだと考えているの?」と。その「どのような対策をとるべきか」を説明してこそ論証であり議論である。「何らかの対策をとるべき」という文言は誰でも簡単に思いつくし、誰でも簡単に言うことができる。誰でも簡単に言えることを言っているだけでは、いつまで経っても問題は解決しないし、いつまで経っても事象に対する理解は深まらない。誰でも簡単に言えることを声高に叫ぶだけで、何かを主張している気になってはいけない。

 前回の記事(中立的で具体的で明瞭で簡潔な論証文を書こう | ギロンバ-議論場- (gironba.com))でも述べたが、主張や提案をする上で無駄な前置きや美辞麗句は不要である。「議論において論証を提示する際に書くべき文章は、『具体的で明瞭で簡潔な文章』である」。冗長な文章や飾り立てた文章ではなく、「分かりやすい文章」が議論・論証には必要なのである。引用内の「運転中の携帯電話使用を禁じよう」と「地球以外の惑星に生命が存在する可能性はかなり高い」という提案・主張のように、提案・主張を述べる際には「論証する目的(=自分が今から “何” を論証しようとしているのか)」 をしっかりと意識して、その “何” を一文で簡潔に表現しよう。

 ちなみに、適切な議論においては、文章を過度に飾り立てると、「論証の見栄えを良くしようとしているのではないか?」「論証にとって不都合なことを隠したい(誤魔化したい)のではないか?」と疑われてしまうかもしれない。論証を作成する際にはその点にも注意しよう。

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