英語話者のように。水先案内人のように。【自分の考えを他者に正確に伝えることを試行錯誤しよう】

議論
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 今回のテーマは「自分の考えを他者に正確に伝えることを試行錯誤しよう」である。過去2回は引用のない記事だったが、今回は再び『論証のルールブック(第五版)』の引用から話を始めよう。

ルール2:筋が通る順序でアイデアを示す

 論証は展開していく。根拠と証拠が結論を導くのだ。

 論証を順序良く展開することは、論証がより詳細で複雑になればことさら肝要だ。

 読み手が前提や結論を認識する手掛かりになる、一般にサインポストと呼ばれるつなぎ言葉(例えば「大きな理由の一つは」など)が使われていないと、論旨がとても理解しにくい。前提とそれを裏付ける例とがつながっておらず、読み返さなければ、どれが結論なのか分からない。読み手がそれほど忍耐強いとは限らない。

 うまく筋が通る順序を見つけるためには、論証を何度か組み立てなおしてみよう。

(アンソニー・ウェストン著・古草秀子訳『論証のルールブック(第五版)』(ちくま学芸文庫、2018年) p25~p27 )

 これまで何度も述べているが、論証とは「推論によって根拠と証拠から結論を導く」という作業である。なので、議論において自らの意見や見解を論証の形で示すときには最低限、「根拠・証拠」、「推論」、「結論」という要素を提示しなければならない。これらの中には、一つとして欠いてよい要素などない。これら全ての要素があってはじめて論証であり、論証によって裏付けられてはじめて意見や見解は議論という場に提示できる。

 なお、論証の順序に統一的な決まりはない。しかし、どのように書いたら分かりやすい内容になるのか?このルール2では例文が掲載されている。それを引用してみよう。

 もっとたくさん豆類を食べるべきだ。その大きな理由の一つは豆類が健康に良いからだ。豆類は食物繊維やタンパク質が豊富で、脂質やコレステロールが少ない。さらにいえば、豆類は料理法が多彩で食欲をそそる。スパイシーブラックビーンズのタコスやフムスを試してはいかがだろう。

アンソニー・ウェストン著・古草秀子訳『論証のルールブック(第五版)』(ちくま学芸文庫、2018年) p25

 この例文では、まず、結論(もっとたくさん豆類を食べるべき)が提示され、次いでその結論を支える前提(豆類が健康に良いこと)とその根拠(食物繊維やタンパク質が豊富であり、脂質やコレステロールが少ないこと)が述べられている。続いてもう一つの前提(料理法の多彩さ)とその例(スパイシーブラックビーンズのタコスやフムス)が述べられている。

 たしかに、この例文はとても明快だ(スパイシーブラックビーンズのタコスやフムスが一体何であるのかは分からないが)。この本の著者は英語話者の方であり、この例文も英語で書かれている。英語の文法においては結論が先頭に配置され、その結論を支える前提や根拠、例示が後に続くという形になりやすい。 一方、日本語の文法では前提や根拠、例示が結論の前に配置されることが多い。

 日本語と英語の優劣について論じるつもりは毛頭ないが、というかそんなことを論じることは不可能だが、議論においては英語の文法のような順序で意見や見解を述べる方が簡潔で好ましいと思われる。なぜなら、結論を最初に提示する方が、発言者が今から何を述べるのかということを聞き手が理解しやすいからだ。これはあくまで私の考えである。

 先述の通り、論証の順序に決まりはない。とにかく自分の考えを相手に理解してもらうという目的を念頭に置きながら論証を展開していこう。この心掛けは、論の内容がより詳細に複雑になったとしても変えてはならない。「少し説明下手だけど、みんな理解してくれるはず」というように聞き手の理解力や忍耐強さには期待せず、「自分の考えを相手が正しく理解してくれるよう自分が相手に正確に伝えるんだ」ということを心に留めよう。

 また、ここでは「サインポスト」というつなぎ言葉について言及されている。この言葉は聞き慣れないものかもしれないが、日本語では「道しるべ」や「手掛かり」という意味を持つ言葉である。サインポストの例としては、「これから私が話していきたいのは…」や「まず、…」、「では、次に…」、「具体的に言えば…」、「端的に言うと…」、引用内にある「大きな理由の一つは…」などが挙げられるだろう。勿論、例示した以外にもサインポストはたくさんある。

 サインポストのようなつなぎ言葉がないと聞き手は、結論、根拠、推論、例それぞれの境目が分かりにくくなり、特に事実と個人的な考えとの区別がつきにくくなってしまう。「一体どこまでが事実で、どこからがあの人の考えなんだろう?」と疑問を抱いてしまう。そのような誤解から議論参加者間の認識の齟齬が生まれてしまうことも多々ある。こういったことを防止するためにも、論証において鍵となる重要なポイントを、「これが私の基本的な考えです」というようなサインポストを用いて何度か繰り返すようにしよう。論証全体を通して自分の考えや意図をはっきり示すために、サインポストを要所要所にはめ込んでいき、聴衆を水先案内することを忘れずに。

 そして、最後にこの言葉に触れておきたい。「うまく筋が通る順序を見つけるためには、論証を何度か組み立てなおしてみよう」。これは、議論をする上で堅持すべき言葉だろう。何事もそうかもしれないが、特に議論においては何度も何度も試行錯誤する必要がある。それくらい論証という作業は大変なのだ。丹念に構成しては、「これじゃあダメだ」とつぶやいて初めからやり直す。これが論証である。しかし、その試行錯誤の中で価値あるものを得るに違いない。

 今回はここまでだ。今回覚えておいてほしいことは「論証には結論・根拠・推論が欠かせず、それらのそれぞれの境目や区別をサインポストによって明確にしよう。また、論証の際には『自分の考えを相手が正確に理解してくれるよう自分が相手に正確に伝えるんだ』ということを肝に銘じ、試行錯誤し続けよう」ということだ。

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