今回のテーマは「論証を作るためにアイデアを案出する」である。まずは引用から話を始めよう。
ルール30:基本的な考えを論証として示す
では、論証を構築することにしよう。つまり、理由や根拠で特定の意見を裏付けるのだ。意見を説明しようとするとき、まず基本的なアイデアを決めて、それを論証の形にする。一枚の大判の用紙を広げて、そこにあなたの前提と結論を実際に書いてみよう。
最初は3~5パラグラフほどから成る比較的短い論証を書く。
(前提1)宇宙には私たちの太陽系以外にも数多くの太陽系が存在する。
(前提2)もし数多くの太陽系があるのなら、地球に似た惑星がある可能性が高い。
(前提3)もし地球に似た惑星があるのなら、そこには生命が存在する可能性が高い。
(結論)それゆえ、地球以外の惑星に生命が存在する可能性が高い。
一つのテーマについて最適な論証を得るには、まずは複数の異なる結論―場合によっては全く別の結論―を検討する必要がある。結論をしっかり決めたら、今度は論証形式を色々試して最適なものを見つける必要があるだろう(最初に「大判の用紙」と書いたのはそのためだ)。ゆっくり時間をかけて試行錯誤するのだ。
(アンソニー・ウェストン著・古草秀子訳『論証のルールブック(第五版)』(ちくま学芸文庫、2018年) p117~p120)
論証には、理由や根拠で意見を裏付けるという作業が必要不可欠である。というか、その作業こそが「論証」であるとも言えるだろう。まずは、意見を説明するために主軸となるアイデアを確定させなければならない。このアイデアは、特定の事象・問題においてとりわけ有力な相関関係、それでいて特定の事象・問題を代表するような相関関係を提示するものでなければならない。
しかし、そのようなアイデアを提示することは簡単なことではないし、それゆえ、そのようなアイデアは頭の中だけで構築できるようなものではない。私を含め、大多数の人間(天才ではない者)には不可能であろう。
では、どうしたらよいのか?「一枚の大判の用紙を広げて、そこにあなたの前提と結論を実際に書いて」みるのだ。別に「大判の用紙」でなくともよい。ノートでもメモ帳でもチラシの裏面でも何でもよい。書ければどんな紙でもよい。とにかく、まずは紙にあなたの意見の結論やその前提を書き出してみて、それを俯瞰して眺めて吟味してみよう。
最初は、短い論証を書くだけでよい。「3~5パラグラフ」もあればよいだろう。引用内の地球外生命体が存在する可能性の例のように、「もし~ならば○○である」という前提を3~5つ並べて、「それゆえ、□□である」という形で結論を導き出すのだ。
また、一つのテーマに一つの結論しかないということはあり得ないので、思いつく限りの結論(自分の支持する結論以外の結論も含む)を検討するべきである。これは「最適な論証」を得るために経なければならない作業である。
とりわけ、自分の意見に反するような結論について検討することは重要である。以前の記事でも述べたが、論証する際には、他の議論参加者によって反論される前に、すなわち自分の論証を作成する段階であらかじめ予想される反論について検討する必要がある。そうすることで自分の論証がブラッシュアップされ、より堅固なものとなる。
もし、上記のような検討作業を行う過程において、当初想定していた結論(自分が支持していた結論)よりも他の結論の方が妥当であると判断できるのなら、(論証作成が振り出しに戻ることになってしまうが)結論とその前提を変更するべきだろう。
論証を作成している段階で、持論の不備や脆弱さに気が付いたのなら、作業を振り出しに戻す必要がある。振り出しに戻すのは非常に勿体ないことであり、それゆえに非常に勇気が要る決断ではあるが、それでも不備や脆弱さを抱えたままの論証を公にするよりはマシである。そのような論証を議論に提示したところで、(適切な議論においては)その論証に対してすぐさま効果的な反論が提示されるだけである。それならば、公にする前に論証を作り直した方が良い。議論とは、論証とは、このようなトライ&エラーによって成り立つものであるということを知っていただきたい。
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