考えを変えることは負けではない。進歩だ。【反論を検討し、持論を変更することの大切さ】

議論
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 今回のテーマは「反論を検討し、持論を変更することの大切さ」である。まずは引用から話を始めよう。

ルール32:反対意見を想定する

 論証を作るとき、自分の考えへの賛成意見ばかり考えてしまうのはよくあることだ。反対意見など考えもしないのだ。遅ればせながら、起こりうる問題について十分検討していなかったと気づくことは多い。そうなる前に自分自身で論証に磨きをかけておくべきだし、場合によっては根本的な変更が必要になることもあるだろう。そうすることによって、これからその論証を披露しようとしている相手に対して、自分がその問題を先入観なく完璧に検討したことを明らかにできる。そこで、想定した結論に対する最高の反論はどんなものだろうかと、常に問いかけよう。

 たいていの場合、何らかの行為がもたらす結果は一つではなく数多くある。あなたにとって想定外の結果は、あまり望ましくないものなのかもしれない。例えばもっと豆を食べようとか幸福になるために結婚するとか学生をもっと海外へ送り出すといった、明らかに良いアイデア(「明らかに」というのは自分側の視点)が、思慮深い善意の人々の反対にあうかもしれない。自分以外の人々がどう考えるか、他人の心の内を配慮しよう。

 反論を受けて、提案や主張を考え直すこともあるだろう。

 反論を考慮する必要性については、一般的あるいは哲学的な主張にもあてはまる。例えば、人間は自由意思を持っている(あるいは、持っていない)とか、戦争は人間の本能だ(あるいは、本能ではない)とか、地球以外の惑星にも生命が存在するといった主張だ。ここでも反論を考えておこう。もし学術的な論文を書くのなら、自分の主張に対する反論を指定図書や参考資料や(信頼できる)オンラインの情報源などから探そう。異なる見解を持つ人に話を訊こう。反対意見をふるいにかけて、最も関心が高く普遍的な意見を選び出し、それらについて答えてみよう。そして、自分の論証について再評価することも忘れずに。自分の前提や結論は、反対意見を考慮して、変えたり発展させたりする必要があるだろうかと考えるのだ。

(アンソニー・ウェストン著・古草秀子訳『論証のルールブック(第五版)』(ちくま学芸文庫、2018年) p124~p126)

 過去の記事においても幾度か述べているが、論証を作成する際には、「自分の考えへの賛成意見ばかり考えてしまう」のではなく、自分の考えに対して投げかけられることが予想される反論について検討しよう。そうすることで、自分自身で自分の論証に磨きをかけることができ、「その論証を披露しようとしている相手に対して、自分がその問題を先入観なく完璧に検討したことを明らかにできる」。自分の論証に対する「最高の反論」を自分で考えて検討できる者は「最高の論者」である。

 これまた何度も述べていることであるが、世界は決して単純なものではなく、非常に複雑なものなのである。人間の認識能力や言語(表現)能力では捉えきれないほどの複雑性を世界は有しているのだ。同様に、相関関係や因果関係も非常に複雑なのだ。「たいていの場合、何らかの行為がもたらす結果は一つではなく数多くある」。一つの原因が一つの結果をもたらすというように、原因と結果が一対になるということはあまりないだろう。それゆえに、自分で「明らかに良いアイデア」だと確信できるようなアイデアであっても、たいていの場合、反論可能である。つまり、何を言いたいのかというと、自分の論証に自信を持つのは良いことかもしれないが、たいていの論には反論することができるので、自分の論証への反論について自分で謙虚に綿密に検討しようということだ。

 「反論を受けて、(自分の)提案や主張を考え直すこと」は、 “適切な” 議論においては頻繁にあることだ。自分の考えや主張を変更することは何も恥ずかしいことではないし、ましてや敗北でもない。むしろ、自分の考えや主張を変更することを恥じるあまりに自分の考えや主張に固執する方が何倍も恥ずかしいし、そのような者が最も議論を阻害するのだ。というか、そもそも “適切な” 議論においては勝利も敗北もない。自分の考えや主張を変更することは退歩ではなく、むしろ「進歩」である。もっと説得的な論証を作成したり、他者の様々な考えを取り入れたり、立場や思想の差異に寛容になったりする上での「進歩」である。

 また、自分の論証に対して投げかけられることが予想される反論について検討するためには、自分の考え・主張・視点・視野・価値観に閉じ籠っていてはならない。常に他者の考え・主張・視点・視野・価値観を自分の中に取り込もうとしなければならない。そのためには、他者理解の意図と能力が必要不可欠であり、さらに、他者理解の意図と能力を涵養するためには、様々な考えや価値観を持つ他者と積極的に話し合っていかなければならない。自分の殻に閉じ籠ることなく、他者と社会と積極的に関わっていくのだ。これが習慣となれば、あなたの論証と、あなたが参加する議論は飛躍的に意義深いものになるだろう。

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