自分の考えに対しても「なぜなに期」を発動する。【持論に対して詳細に反論する】

議論
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 今回のテーマは「持論に対して詳細に反論する」である。引用から話を始めよう。

ルール37:反対意見を詳しく述べ、それらに答える

 想定される反対意見を細部まで考え、対処法を決めることは、論文の説得力を高め、あなたがその問題について慎重に考えたことを証明する。

 (悪い例)交換留学プログラムの拡充は学生たちにあまりにも多くのリスクをもたらすという反対意見があるかもしれない。だが、私が考えるに……

 さて、どんなリスクだろう?なぜ、そんなリスクが生じるのか?反対意見を裏付ける根拠を示してほしい。自分の論証をきちんと裏付けるためには、反対意見の結論だけを書き添えるのではなく、もっと時間をかけて全体を検討しよう。

 

 交換留学プログラムの拡充は学生たちにあまりにも多くのリスクをもたらすという反対意見があるかもしれない。心配されるのは、海外へ出る学生たちは大半が若くて経験不足であるため、生活が厳しく安全や保護があまり期待できない環境では、利用されたり害されたりしやすくなるという点だろう。

 昨今では外国人に対する恐れや不審、そしてテロへの恐怖が高まっていることから、人々はますます神経質になっているようだ。そのため、学生たちの生命が危険に晒されるかもしれないと心配する。学生たちが現地の情勢の犠牲として人質にでもなったら大変だと考える。既に西欧からの観光客が犠牲になった事件がいくつも起きている。交換留学生も同じような悲劇に見舞われないとも限らないと考えるのは当然である。

 この件に関しては重要な問題がいくつもある。それでも、真摯な対策は実行可能であり……

 

 このように書けばどのような反対意見があるのかを明確にでき、それらに対する効果的な対応策を述べられる。たとえば、国境を越えた途端に危険が生じるわけではないと論じることができる。アメリカの都市よりもずっと安全な国はたくさんあるのだ。もっと複雑な答えとしては、こんなことが考えられる。国際間の理解の欠如と、それによって生じる他国への憎悪は世界を危険に満ちた場所にしてしまうので、外国へ文化を伝える大使を送らないことは社会全体を危険に晒すことにつながってしまう。

 そして、そうしたリスクを低減するような交換留学プログラムを設計する創造的な方法は、たしかに存在するのだろうか?そうした可能性について考えたこともないかもしれないが、反対意見の背後にある論証を詳細に述べなければ、どんなにあなたが自説を提示しても読み手はそれを受け入れないだろう。反対意見を詳細に検討することは、結局はあなたの論証を豊かにする。

(アンソニー・ウェストン著・古草秀子訳『論証のルールブック(第五版)』(ちくま学芸文庫、2018年) p138~p141)

 「反例の検討で一般化と論証を磨き上げる | ギロンバ-議論場- (gironba.com)」や「反論を検討し、持論を変更することの大切さ | ギロンバ-議論場- (gironba.com)」といった記事でも述べているが、論証を作成する際に、自分の論証に対して為されることが予想される反論について検討することは必要不可欠である。反論を検討することによって、自分の論証の不備や誤りや見逃している可能性などがあぶり出され、それらと真摯に向き合いながら改善していくことで、自分の論証のクオリティを高めることができる。

 反論を検討することによって自分の論証を磨き上げるためには、(反論の結論とその結論を裏付ける根拠や論証を含めて)持論に対する詳細な反論を自分で思いつけなくてはならない。思いつく反論が詳細であればあるほど、自分の論証をクオリティ高く仕上げることができる。となれば、自分の論証に厳しい目を向け、厳しく真剣に評価できなければならない。そうしなければ何の意味もないだろう。詳細な反例・反論を思いつくことができれば、それらに対する詳細で効果的な対応策を案出することができ、それらの対応策を自分の論証に取り入れることで、より堅固な論証を作り上げることができる。

 反論の検討を、単に一つの形式的なプロセスとして認識してはならない。たしかに、反論の検討は論証作成において必ず経なければならないプロセスではあるのだが、単に「プロセス」と捉えるよりも「より良い論証を作成する上での最良の友」と捉えてほしい。自分の論証に対するより良い反論を提示できる者がより良い論者なのである。このことを忘れずに。

 「想定される反対意見を細部まで考え、対処法を決めることは、論文の説得力を高め、あなたがその問題について慎重に考えたことを証明する」。その通りである。反論・反対意見を検討するということは、自分の考えとは異なる考えについて考えることであり、それゆえに、反論・反対意見について検討できるということは、自分の考えを相対化することができる客観的視野・他者の考えに耳を貸すことができる寛容さ・自分の誤り・改善点を受け入れることができる謙虚さを論者が有しているということである。逆に、反論・反対意見について検討できない(検討する気がない)ということは、自分の考えに固執して、自分の狭い世界に閉じ籠っているということである。論証を作成する際、ひいては議論に参加する際には、客観的視野と寛容さと謙虚さが必要不可欠である。偏見や固定観念、「自分の考えが正しい」という妄信・思い込みは論証と議論を歪ませるので、廃棄しよう。

 反論を思いつくためには、自分の考えや論証に対して疑問を抱けるようになる必要がある。この世界の様々な事象に対して「なぜ?」「どうして?」と問うことの重要さについては「「なぜなに期」のすゝめ | ギロンバ-議論場- (gironba.com)」という記事でも述べているが、自分自身に対しても「なぜ?」「どうして?」と問うべきである。「なぜ私はAという考えを持っているのか?」「なぜ私はAという考えの妥当性を裏付けるためにBという論拠を用いているのか?」などと常に問い続けるべきである。これは難しい心掛けであるかもしれないが、この心掛けを習慣化することができれば、あなたは素晴らしい論者になることができるだろう。

 また、自分の論証に対する反論を思いつくためには、様々な他者と積極的に交流・議論したり、他者の考え・意見をたくさん見聞きしたりする必要もある。当たり前だが、「他者だったらどのように考えるか?」ということが分からなければ、つまり他者の立場・視点に立つという想像力が欠如していれば、他者の立場・視点で反論を思いつけるはずがない。他者の考えを知るには、多種多様な人間と積極的に話し、多種多様な考え・意見に触れるように心掛けるべきだ。このサイトの掲示板でトピックを立ててみんなに話しかけてみるのも良いだろう。本や新聞・ニュースをたくさん読んでみるのも良いだろう。

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