「議論」とは何か。この語を辞書で引いてみると「互いの意見を述べて論じあうこと」(議論とは – Weblio辞書)と出てくる。
議論、すなわち互いの意見を述べて論じ合う上で重要なものはたくさんある。その中でも何より重要なのは「論証」である。では、「論証」という語も辞書で引いてみよう。
論証とは、「ある与えられた判断が真であることを妥当な論拠を挙げて推論すること。その論拠が公理・公準などか、または経験的事実かによって演繹(えんえき)的・帰納的の別があり、また帰謬(きびゅう)法によるか否かによって間接的・直接的の別がある」(論証とは – Weblio辞書)だそうだ。
この説明を読んで、なるほど、そういうことか!となればベストだが、大多数の人がこの説明ではいまいち理解できないだろう。私も理解できなかった。難解そうな言葉を並べるだけの説明では、結局、論証が何であるかはよく分からない。
ということで、これから長期に渡って論証についてできるだけ嚙み砕いて説明していく。ちなみに、この試みの簡単な結論を予め示しておくとすれば、「論証なき議論は独白合戦でしかない」ということだ。なお、この試みにおいては、アンソニー・ウェストン著・古草秀子訳『論証のルールブック(第五版)』(ちくま学芸文庫、2018年)という本に多大な協力をしてもらう。ためになる内容が満載なので、この本の内容に準拠して話を進めていこうと思う。興味のある方は是非ともこの本を読んで頂きたい。
では、始めよう。今回のテーマは「論証とは何か」である。
早速だが、興味深い内容を見つけた。では、抜粋した箇所を見ていこう。
「論証する」とは、結論を支える一連の根拠や証拠を提示することを意味する。論証は単に自分の考えを主張するだけでなく、単純な議論でもない。論証とは、特定の考えを根拠で裏付けようとする行為である。
論証が非常に重要である第一の理由は、それが見解の是非を判断する手段だからだ。いくつもの結論が想定される場合、論証によってそれぞれを評価し、実際にどれほど説得力があるか見極めなければならない。
論証は検討のための手段である。
根拠で十分に裏付けられる結論が得られたなら、それをいかにわかりやすく説明し、正当性を主張するかが論証の役割となる。良い論証は、結論を単純に何度も繰り返すだけのものではない。根拠や証拠を示して、他人を納得させる。
他人を確信させるには、あなた自身をそう確信させた根拠や証拠を示す必要がある。断固たる考えを持つことは間違っていない。だが、その考えを裏付ける根拠や証拠を持たないことは間違っている。
(アンソニー・ウェストン著・古草秀子訳『論証のルールブック(第五版)』(ちくま学芸文庫、2018年) p13~15)
なるほど。これらの箇所での肝は、根拠と証拠で結論を裏付けることが論証であり、ある見解を評価するための手段となるのも論証であるということだ。議論を通して自分の見解を他人に伝えたいときにあなたがしなければならないことは、その根拠と証拠をオーディエンスに提示することだ。根拠と証拠が欠けている論証は存在しないし、論証が欠けている議論も存在しない。確かな根拠と証拠が無くては誰も納得させることができないし、そもそも確かな根拠と証拠が無い見解に納得させられてはならない。どんなに正しく思える見解であっても、そこに明確な根拠と証拠が伴っていないのなら、疑いの目を向けるべきだ。
私は人間不信になることを推奨しているわけではない。しかし、世間に流布している意見や主張には一旦疑いの目を向けるべきだと考えている。「明確な根拠と証拠の有無」という観点から、世間を広く見回して、あらゆる意見や主張を吟味してみてほしい。テレビ番組とネット上の掲示板とSNSで述べられている意見や主張は特に注意深く吟味してほしい。
すると、論証が少ないということが分かるはずだ。曖昧な前提や誤った推論や不明な情報源に立脚した意見・主張が世にあふれていることが分かるはずだ。議論が必要とするのは論証であり、論証が必要とするのは明確な根拠と証拠である。そして、明確な根拠と証拠というのは正しい前提や合理的な推論や信頼のある情報源のことだ。
根拠と証拠について述べなければならないことは山ほどあるので、引き続き取り扱っていく。回を重ねるにつれて私とあなたはどんどん深みへと潜っていくことになる。だが今回は、根拠と証拠の内容について深めていくことは紙幅の制限により叶わない。それは次回以降ということになる。
今回の内容で覚えておいてほしいのは「議論には論証が必要であり、論証には明確な根拠と証拠(正しい前提や合理的な推論や信頼のある情報源など)が必要である」ということだ。
なお、私は議論について述べているのであって、議論しているわけではない。勿論、議論について述べる者として情報の正確性や発言・文章の合理性・論理性などには細心の注意を払っているつもりだ。とはいえ、私一人でこの文章を書いているので、ここで述べられていることは、あくまで個人的な考えの独白に過ぎない。賢明な読者のみなさまにはそのように捉えて頂きたい。
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