論証するときも、山上で説教するときも【用語とその定義、文章スタイルを途中で変更しない】

議論
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 今回のテーマは「用語とその定義、文章スタイルを途中で変更しない」である。引用から話を始めよう。なお、この記事用に内容を一部改変している。

ルール6:首尾一貫した言葉を使う

 通常なら短い論証ではテーマや文脈は一つである。一つの考えをいくつかの段階を経て展開するのだ。したがって、その一つの考えを注意深く選択した明確な言葉で表現し、各段階で同じ言葉を使用しよう。

 ウィリアム・ストランクとE・B・ホワイトは『英語文章ルールブック』で、有名な「イエス・キリストの山上の説教」を例にとって、「並列構造」すなわち「物事を並列して並べるときには各要素が同じカテゴリーでなければならない」というルールを説明している。

 心の貧しい人々は、幸いである、天の国はその人たちのものである。悲しむ人々は、幸いである、その人たちは慰められる。柔和な人々は、幸いである、その人たちは地を受け継ぐ。

(マタイによる福音書五章)

 ここでは「Xは、幸いである、なぜならY」というかたちが公式となっている。つまり、いずれの文章も全く同じ構造で同じ表現が使われている。論証の際にも、同じやり方をしよう。

 良い文は地味で文章スタイルは恰好が良くないかもしれないが、具体的で明快である。悪い文では、鍵となる考えが登場するたびに異なる言葉で表現される。良い文では同じ言葉を使って論証する。

 勿論、文章のスタイルを重視する必要がある場合もあるが、その場合でも言葉を飾り過ぎず、簡潔な論証を追求しよう。

(アンソニー・ウェストン著・古草秀子訳『論証のルールブック(第五版)』(ちくま学芸文庫、2018年) p32~p35 )

 議論という場において持論を提示するためには、根拠・推論・結論から成る論証の作業が必要不可欠である。また、その論証を構成する根拠(前提)そのものを論証する必要もある。これら論証の際に気を付けるべきことは、一つの論証で述べる話題・論点は複数にならない方が良いということだ。なるべく「一つの論証につき一つの話題・論点」となるように心掛けよう。そして、論証全体を通して、同じ言葉や同じ文章スタイルを使用するようにしよう。

 論証全体を通して使用する重要な用語については、発言の最初に定義しておかなければならない。そして、基本的にその定義は定義以降に変更しない(定義を行った直後は除く)。特に、用語の定義を論証や反論の中で勝手に変更することは反則(詭弁・誤謬)である。論証や議論の途中で何の了解もなく定義が変わってしまうと、「同じ話題について話しているようで、いつの間にかそうではなくなっている」という事態に陥ってしまう。同じ話題について話しているつもりでも、議論参加者の間で認識の齟齬がどんどん広がっていってしまう。

 ちなみに、論証や反論、議論の途中で用語の定義を勝手に変更するという「反則」はよく見られるものだ。意識的か無意識的かは問わず、これはれっきとした「反則」である。この反則は特に反論において頻繁に見受けられる。その理由の一つ目は、相手が定めた用語の定義を自分の都合の良いように勝手に変更することによって、自分が相手に反論しやすくなるからだ。理由の二つ目は、単に用語の定義について理解していないからだ。この反則技は汎用性が高く、使うことによって相手に楽に反論できるようになるという代物だ。また、この反則は用語の定義を理解していない場合にあまりにも容易に陥ってしまうものだ。それゆえ、この反則は、ルールなき秩序なき既存の議論においては広く見られる。

 もし相手が示した定義について異議や疑義があるのであれば、できるだけ早く、それらについて相手に問うてみたり、より良いと思う定義を相手に提案したりするべきだ。定義についての議論は議論の最初や発言の直後に行わなければならない。自分が示した定義も相手が示した定義も、途中で、勝手に、誰の了解も得ないまま変更してはならない。これは肝に銘じておいていただきたい。

 また、論証全体を通して同じ文章スタイルを使用するということに関しては、上記引用内の「マタイによる福音書五章」の例を見てみると分かりやすいだろう。「Xは、幸いである、なぜならY」という一つの型が一貫して使用されていることが見て取れるだろう。この例は短いものだが、論証においてもこのような一貫性を意識しよう。

 「良い文は地味で文章スタイルは恰好が良くないかもしれないが、具体的で明快である」という部分で述べられている通り、議論においては論証においては、飾り立てた恰好良い文よりも、具体的で明快な分かりやすい文の方が好ましい。勿論、ベストは恰好良くて分かりやすい文だが、恰好良くしようとするよりかは分かりやすくしようとすべきだ。そして、同じ用語・同じ定義を一貫して使用し続けることを忘れずに。

 今回はここまでだ。今回覚えておいてほしいのは「用語を定義したら議論中はそれを一貫して使用し続けよう。定義を誰の了解も得ないまま変更するのは基本的に禁止である。もし議論中に定義を変更したいなら、できるだけ早くそれを提起すべきだ。加えて、議論中は一定の文章スタイルを保持し、その文章スタイルは恰好良さよりも分かりやすさを重視すべきだ」ということだ。

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