「全ての○○は~だ」と言い切らない方がよい。【反例の検討で一般化と論証を磨き上げる】

議論
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 今回のテーマは「反例の検討で一般化と論証を磨き上げる」である。引用から話を始めよう。なお、分かりやすいように引用の文言を少々改変している。

ルール11:反例を検証する

 反例とはあなたの一般化を否定する例のことだ。早い段階でうまく使えば、反例は一般化の最良の友になれるのだ。例外は「ルールを証明しない」どころか、逆に誤りだと立証してしまう恐れさえあるが、より完璧に近づけることができるし、あなたの手助けをしてくれる。それ故、早い段階で徹底的に反例を探そう。それこそが、自分が想定する一般化に磨きをかけ、テーマをより深く探るための最良の策だ。

 太陽光発電は広く使用されている。水力発電は昔からずっと広く使用されてきた。風車はかつて広く使用され、ふたたび広く使用されるようになりつつある。したがって、再生可能エネルギーは広く使用されている。

 ここで挙げられている例は、太陽光、水力、風力といった複数の再生可能エネルギー源が広く使用されていると証明することを助けている。だが、更なる例を見つけようとするのではなく反例を考えれば、たちまちにしてこの論証が一般化し過ぎていると分かるだろう。

 果たして、全ての再生可能エネルギーが広く使用されているだろうか?「再生可能エネルギー」の定義を調べれば、潮汐エネルギーや地熱エネルギーなど様々なタイプの再生可能エネルギーが見つかる。そして、それらは多かれ少なかれ、それほど広く利用されていない。利用できる地域が限られているし、利用可能にしてもコントロールするのが困難だ。

 反例を考えてみると、一般化を調整する必要が生じる。前述の論証を例にとれば、結論を「様々な形態の再生可能エネルギーが広く使用されている」と変えることが考えられる。そうすれば、一部に限界や改善の余地があることを認めながらも、再生可能エネルギーが広く使用されていると論じられる。

 反例は、あなたが本当に主張したい内容について、より深く考えるように促すものだ。例えば、あなたが再生可能エネルギーについて論じる目的は、従来使用されてきた再生不可能なエネルギー源に代わって利用できる選択肢が存在すると示すことなのかもしれない。もしそうならば、全ての再生可能エネルギーが広く使用されていると論じる必要はない。あまり広くは使用されていないエネルギー源をもっと開発しようと促すこともできる。

 あるいは、全ての再生可能エネルギーが広く使用されている、もしくは広く使用し得ると論じるのではなく、全ての(または、ほぼ全ての)場所に何らかの再生可能エネルギー源があるものの、それらは場所によって様々に形態が異なると論じたいのかもしれない。

 自分の主張だけでなく、他人の主張を評価するときもまた、反対意見を考えてみよう。彼らの結論に訂正や条件付けが必要かどうか、より微妙で複雑な方法で考え直す必要があるかどうか。あなた自身の論証にも他人の論証にも、同じルールがあてはまる。一つだけ違うのは、自分の論証なら自分で修整するチャンスがあるということだ。

(アンソニー・ウェストン著・古草秀子訳『論証のルールブック(第五版)』(ちくま学芸文庫、2018年) p51~p54)

 「反例」と聞くと、マイナスのイメージを喚起するかもしれない。だって、あなたが苦慮して編み出した一般化を否定するのだから。しかし、「早い段階でうまく使えば、反例は一般化の最良の友になれるのだ」。“自分で” “早い段階で” 反例を用いることができれば、反例はあなたの一般化に磨きをかけ、さらにはあなたの論証に磨きをかける。「自分の論証なら(予想される反例や反論をあらかじめ検討することによって)自分で修整するチャンスがある」からだ。

 引用内の「再生可能エネルギーの一般化」の例について見ていこう。この場合においては太陽光発電、水力発電、風力発電といった広く用いられている再生可能エネルギーだけを例示して「再生可能エネルギーは広く使用されている」ことを論証しようとしている。

 しかし、他にも再生可能エネルギーの例はある。それも、「広く使用されていない再生可能エネルギー」の例がある。すなわち「反例」がある。反例が存在しているということは、上記の「再生可能エネルギーは広く利用されている」の一般化は、少ないサンプルによって一般化し過ぎていたのである。

 この時点で、「一般化を調整する必要が生じる」のだ。「再生可能エネルギーは…」という一般化で、「“全ての” 再生可能エネルギー」を主語とするのではなく、引用内の通りに「様々な形態の再生可能エネルギーが広く使用されている」と一般化する方がよい。

 なぜなら、必ずしも再生可能エネルギーは広く使用されているわけではないという余地を残すことで、「一部に限界や改善の余地があることを認めながらも、再生可能エネルギーが広く使用されていると論じられる」からである。

 こうすることにより、「潮汐エネルギーや地熱エネルギーなど」「それほど広く利用されていない」再生可能エネルギーについても考慮に入れて、広い視野を確保した上で、再生可能エネルギーについて偏見・先入観なく論じているということを他者に明白に示すことができる。また、予想される反論に自分であらかじめ答えておくことで、相手からの反論を予防するという利点もここにはある。

 なお、引用内にある通り、論じる目的によっては「全ての再生可能エネルギーが広く使用されていると論じる必要はない。あまり広くは使用されていないエネルギー源をもっと開発しようと促すこともできる」。

 何を論じようとしていても、「全ての~が○○である」と一般化し過ぎてはならない。というより、論じる目的にもよるが、そこまでしなくても目的を達成できるという場合は案外多い。なので、一般化し過ぎるくらいなら「一部に限界や改善の余地があることを認め」るような一般化をする方が格段に良い。そうすることにより、自分の論を磨き上げることができ、相手からの反論も予防できるのだから。

 早い話、“自分で” “早い段階で” 反例を用いることは、公にする前に自らの一般化と論証をブラッシュアップするという目的、特定の偏見や先入観に凝り固まらずにしっかりと反例を検討した上で説得力のある論証を展開していることを示すという目的、(反例を用いた)反論の芽をあらかじめ摘み取っておくという目的などに適う。

 また、今まで「反例」について述べていたが、「反論」についても同じことが言える。“自分で” “早い段階で”、反論を自分の論証に適用することは、反例の場合と同じく、上記の目的に適う。加えて、「自分の主張だけでなく、他人の主張を評価するときもまた、反対意見を考えてみよう」。あなたも相手も同じ議論のルールの下にあるので、自分の論にも他人の論にも同じように反例や反論を考えてみよう。

 今回はここまでだ。今回覚えておいてほしいのは「“自分で” “早い段階で” 反例を用いることは、公にする前に自らの一般化と論証をブラッシュアップするという目的、特定の偏見や先入観に凝り固まらずにしっかりと反例を検討した上で説得力のある論証を展開していることを示すという目的、(反例を用いた)反論の芽をあらかじめ摘み取っておくという目的などに適う」ということだ。

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