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前回に引き続き今回も、とある医療関係者(以下、「筆者」と呼称する)が投稿した「ワクチンで死ぬ子供たち」という情報について検討してみる。
5.
そもそも、a~eのような画像を掲載するのであれば、それらの引用元・情報源を明示しなければならない。
また、「若年成人には、特に心筋炎のリスク」「海外でも多発」「ワクチンにより10代男児226症例に心臓の炎症が多発。CDCが緊急会合を招集」「ワクチン接種直後、意識消失した12歳男児」「ワクチン2回目接種後に心筋心膜炎を発症」などの短い要約には不適切なものも含まれている。後述するが、「多発」という見解は公式発表や報道の内容と合致しない。
a~eの画像の引用元を探ってみた。
a. 第62回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検 討部会、令和3年度第11回薬事・食品衛生審議会薬事分科 会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催) 2021(令和3)年6月23日 副反応疑い報告の状況について000796562.pdf (mhlw.go.jp) 26ページ
当該画像にあたる箇所の前のページには、「心筋炎関連事象及び副反応疑い報告例に関する全体のまとめ」という項がある。そこには以下の記述がある。
・「心筋炎関連事象(心筋炎・心膜炎)は、一般にウイルス感染等によって発症する。顕在的な症例は稀であるが、無症候性や軽症例のものも含め、潜在的な症例が存在しているものと想定される」。
・ 「海外の報告では、ワクチン接種後の心筋炎関連事象は、1回目よりも2回目接種後の報告例が多く、 若年の男性で多い傾向にあり、また、発症しても軽症が多いとされている」。
・ 「我が国の報告においても、海外の報告と同様、1回目よりも2回目接種後の報告例が多く、若年の男性で多い傾向にある。若年男性に係る報告事例では、全例、軽快又は回復が確認されている」。
・「正確な比較は困難であるが、若年の男性においては、非接種者における発現頻度に比べ、接種者に おける発現頻度が高い可能性がある。一方、新型コロナウイルス感染症患者においても、一定の割合 で心筋炎の合併が報告されており、入院を要するような症例では、心筋炎関連事象の発現頻度は、接 種者における発現頻度と比較しても相当程度高い可能性がある」。
・「死亡、アナフィラキシー及び心筋炎関連事象を含めた国内の発生状況については、現時点において、 ワクチンの接種体制に直ちに影響を与える程度の重大な懸念は認められず、引き続き国内外の情報を 収集しつつ、新型コロナワクチンの接種を継続していくこととしてよいか」。
このことに関しては、厚生労働省のQ&A「ワクチンを接種すると心筋炎や心膜炎になる人がいるというのは本当ですか。|新型コロナワクチンQ&A|厚生労働省 (mhlw.go.jp)」にも記述があるので、読んでおこう。
b. 若い男性の心筋炎が予想外に多発、ファイザーやモデルナ製ワクチン | Reuters
たしかに、「ファイザーやモデルナが開発したメッセンジャーRNA(mRNA)型の新型コロナウイルスワクチンについて、接種後に心筋炎を発症するケースが若い男性の間で想定以上に多いことが分かった」そうだ。しかし、「CDCでは、引き続き検証作業を行っており、ワクチンと心筋炎もしくは心膜炎との因果関係について結論は出ていないと表明。また発症者の大半は完全に回復していると強調した」「ファイザーは、心筋症に関するCDCの検証を支持するとしながらも、接種数と比較して発症数が少ないと指摘した」とある。詳しくはURL元の記事を読んで頂きたい。
c. 発見できず。
画像に掲載されている記事は見つけることができなかったが、同内容の記事は発見した。それがこのURLである。 CDC Calls Emergency Meeting on Heart Inflammation Link to COVID-19 Vaccines – Consumer Health News | HealthDay
この記事の内容について一部抜粋したものが以下である。
“The agency(=the U.S. Centers for Disease Control and Prevention、CDC) said it has identified 226 reports so far that may meet its “working case definition” of myocarditis and pericarditis following vaccinations. Most of those patients have recovered, but three remain in intensive care, 15 are still hospitalized, and 41 have ongoing symptoms,”=「CDCによると、これまでにワクチン接種後の心筋炎および心膜炎に関する『実際の(研究的な、専門的な、作用的な)症例の定義』に合致する可能性のある報告が226件確認されているという。これらの患者の大半は回復しているが、3人が集中治療下にあり、15人がまだ入院しており、41人は症状が続いているという」。
“according to Tom Shimabukuro, M.D., a CDC vaccine safety official. The 226 known cases remain extremely rare, having occurred among nearly 130 million Americans who have been fully vaccinated with either the Pfizer or Moderna vaccines, ”=「CDCのワクチン安全担当者であるTom Shimabukuro医学博士によると、ファイザー社またはモデルナ社のワクチンを完全に(2回)接種した約1億3千万人の米国人の中で、226件の既知の症例が発生したことは極めて稀であるとのことだ」。
d. 発見できず。
e. 発見できず。
6. 「昆虫の遺伝子を組み込んだ新しいタイプのワクチンのことだけど」「ワクチンに昆虫の遺伝子を使うっていう発想は新しいものではなくて、実はHPVワクチンにも使われてるんですね」
そもそも両発言は矛盾している。新しいのか新しくないのか、どちらなのだろうか?調べてみた結果、おそらく「新しくない」という方が妥当だろうと思う。
筆者の言う通り、HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンにも、昆虫細胞を用いてタンパク質を生成するという技術は適用されている。このことに関しては、(査読付き論文や招待論文ではないらしいが)以下の論文で言及されている。
・HPV ワクチンによる子宮頸癌予防 井上正樹 金沢大学医学系研究科産婦人科学virus58-2_155-164.pdf (umin.jp)
・ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの現状と課題 笹川寿之 MM0910_04 (eiken.co.jp)
・ヒトパピローマウイルスと子宮頸癌 神田忠仁,柊元巌 国立感染症研究所・病原体ゲノム解析研究センター virus56-2_219-230.pdf (umin.jp)
ちなみに、「塩野義による昆虫細胞を用いた新型コロナワクチン開発」を知る上で参考になるであろう情報源を以下に示しておく。
まず、上記の画像内の6~8の上にある記事は「コロナ国産ワクチン製造準備、昆虫細胞を用いた培養タンクでは世界最大規模 塩野義製薬製 | 社会,医療 | 全国のニュース | 福井新聞ONLINE (fukuishimbun.co.jp)」であると判明した。この記事は読んでおきたい。
「【更新】国産コロナワクチン、開発状況は? 塩野義にアンジェス…実用化に期待高まる | 河北新報オンラインニュース / ONLINE NEWS (kahoku.news)」という記事も参考になるだろう。
また、以下で引用する記事には、インタビュー形式による木山竜一塩野義製薬医薬研究本部長による当該ワクチンについての説明が掲載されている。
塩野義製薬が新型コロナワクチン開発に挑むワケ/上 | 医療プレミア特集 | 永山悦子 | 毎日新聞「医療プレミア」 (mainichi.jp)
Q. 既に一般への接種が始まっているファイザー社やモデルナ社の「メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン」、アストラゼネカ社の「ウイルスベクターワクチン」は、新型コロナの遺伝子の一部を投与します。これは、これまで実際に使われたことがない新たな仕組みのワクチンです。塩野義製薬が開発を進めているワクチンは、どんな仕組みですか。
A. 「遺伝子組み換えたんぱくワクチン」と呼ばれます。新型コロナの遺伝子の一部を組み込んだ「バキュロウイルス」(人などに感染しないウイルス)に昆虫の細胞を感染させ、新型コロナの表面にある「スパイクたんぱく質」を作り、ワクチンとして投与します。スパイクたんぱく質は、体内の免疫を呼び起こす「抗原」となり、体内で新型コロナに対抗する「抗体」が作られます。抗体ができれば、新たに新型コロナが入ってきても症状が出にくかったり、症状が出ても重症化しにくかったりする効果が期待できます。
昆虫細胞によるタンパク質発現については、以下の情報源にて言及されている。
・昆虫細胞培養 | Thermo Fisher Scientific – JP
・「昆虫細胞を用いた有用物質生産」 山地秀樹 9402_yomoyama (sbj.or.jp)
後者の招待論文から少し引用してみよう。
『昆虫細胞を用いた有用物質生産』 山地秀樹 9402_yomoyama (sbj.or.jp)
昆虫細胞-バキュロウイルス系は,昆虫を宿主とする バキュロウイルスに外来遺伝子を組み込み,昆虫細胞に 感染させて目的のタンパク質を発現させる.1983年末 に,本系を用いた活性型ヒトインターフェロンȕの大量 生産が初めて報告された.その後30年余りの間,組換えバキュロウイルスの作製法が改良されるとともに,関連する技術も整備され,本系は多種多様なタンパク質の 生産に活用されてきた.また,本系を用いて製造され た動物用の組換えワクチンが2000年に上市され,2007 年にはヒト用のワクチンも承認された.
7.「日本ではワクチンはまだ強制になってないでしょ?それは、中国のためなんです。全員強制にしてファイザーやモデルナを1回でも打ってしまうと、この新型の昆虫ワクチンの正確な評価がしにくくなる。だから、まだ強制にしていないのかな、って」
この箇所にあるような情報は見つけることができなかった。
8.「HPVワクチン打った私の友人は、打って以後、虫に刺されたらものすごく腫れるようになってしまって。交差抗原みたいなものかな」
子宮頸がんなどの原因となるHPV(ヒトパピローマウイルス)感染を予防するHPVワクチンの副反応として「虫刺され(虫刺症)」に関するものは見つけることができなかった。厚生労働省のページにも記載はなかった。ちなみに、厚生労働省によると、「(HPVワクチン接種後の報告されている『多様な症状』に)ワクチン接種との因果関係があるという証明はされていません」とのことである。以下がURLである。
・HPVワクチンQ&A|厚生労働省 (mhlw.go.jp) Q18、Q19
また、HPVワクチン一般については以下の情報源を確認されたい。
・ヒトパピローマウイルス感染症~子宮頸がん(子宮けいがん)とHPVワクチン~|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
・HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン(子宮頸がんなどの予防ワクチン)- Know VPD! (know-vpd.jp)
ちなみに、「交差抗原」については以下の情報源に記載があったので、少しばかり引用する。
群馬県 食物アレルギーの基礎知識 (pref.gunma.jp)
一つの食品にアレルギーを起こす場合、それに類似した他の食品にも同時に反応する場合があります。これを交差抗原性といいます。例えば、鶏卵とウズラの卵、エビとカニ、多種の魚同士には交差抗原性があります。小麦アレルギーの一部は大麦にも反応します。ピーナッツアレルギーの場合、他のナッツ類に交差抗原性を持つかどうかは個人差が大きく、個別の判断が必要です。
野菜・果物類|除去食と代替食|公益財団法人ニッポンハム食の未来財団 (miraizaidan.or.jp)
「交差抗原性:食物や花粉などに含まれるタンパク質の構造が似ている場合、原因食物以外でも症状が誘発されること。交差抗原性が認められる食物で症状が誘発されるかどうかは個人差がありますので、専門医に相談しましょう」
9.「目的は、もちろん、思考のコントロールです」
「思考のコントロール」に関する言及は見つけることができなかった。
「ムーンショット型研究開発制度」に関する内閣府の説明は以下の通りである。
ムーンショット型研究開発制度 – 科学技術・イノベーション – 内閣府 (cao.go.jp)
「ムーンショット型研究開発制度は、我が国発の破壊的イノベーションの創出を目指し、従来技術の延長にない、より大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発(ムーンショット)を推進する新たな制度です」。
また、”moonshot” の意味には以下のようなものもある。
moonshotの意味・使い方・読み方|英辞郎 on the WEB (alc.co.jp)
「難しいが、実現すれば大きな効果をもたらすような、壮大な計画や試みを指す」
10. 「ファイザーの寄生虫入りワクチンや、塩野義の昆虫ワクチン」
たしかに、ファイザー社製ワクチンの異物混入疑い事案はあったが、その異物が「寄生虫」であったという発表・報告・報道は見つけることができなかった(ツイートや個人ブログなどは信頼性・信憑性が乏しいので除外。というか発表でも報告でも報道でもない)。なお、ファイザー社はこの件に関する説明している。
ファイザー新型コロナワクチン バイアル内の白色浮遊物について(続報) (pfizer.co.jp)
「鎌倉市、相模原市、堺市よりご相談いただきお預かりしたバイアル(ロット番号「FF5357」)内の白色浮遊物について調査した結果、製品由来のものであり、安全性に問題がないことを確認いたしました」。
ちなみに、新型コロナワクチンの異物混入への対応|厚生労働省 (mhlw.go.jp)というページには他社ワクチンへの異物混入に関する情報が掲載されているので、確認してみましょう。
また、「塩野義の昆虫ワクチン」ではなく、「塩野義の昆虫細胞を用いた遺伝子組み換えたんぱくワクチン」という呼称・表記が適切であろう。
11. 「自分の思考がもはや自分のものではなくなって」
新型コロナワクチン接種者の「思考」への影響に関する発表・報告・報道は見つけることができなかった。
ただ、筆者による「思考」の定義が不明であるので、今回は「思考」という言葉に触れている発表・報告・報道を探った。その点は留意されたい。
12. 「『抗体は2か月で半減』というニュース」
筆者は情報源を掲載したり情報を引用したりするべきであろう。
ちなみに、それぞれの情報の発出時期にはばらつきがあるが、以下が「抗体の減少」に関する情報源である。
新型コロナワクチン 抗体値 2カ月で48%に半減 鹿児島市の病院が検査 専門家「効果半減ではない」(南日本新聞) – Yahoo!ニュース
接種から3カ月後「抗体」4分の1に 予防効果は持続か [新型コロナウイルス]:朝日新聞デジタル (asahi.com)
ファイザー“抗体量”3か月後4分の1に減|日テレNEWS24
新型コロナウイルス感染時に獲得されたウイルスに対する抗体は少なくとも発症後3~6か月間は維持される | 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (amed.go.jp)
ファイザー社の新型コロナワクチンで、接種約3ヶ月後に抗体価が低下することを発表しました | 藤田医科大学 – Fujita Health University (fujita-hu.ac.jp)
以上を鑑みるに、今回取り上げた「ワクチンで死ぬ子供たち」という情報は、正しいと判断できる箇所もあるものの、概ね誤っているとみなすことができるだろう。
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