今回は「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」についてのとある情報を検証していく。以下がファクトチェック対象となる画像である。
なお、画像内の右で言及されている相模原市の新しい条例については現時点(2021年10月6日時点)で未だ制定・公布されていないので検証不可能である。なので、今回は画像内の左のイラストのみを検証対象とする。
まずは川崎市のホームページに掲載されているパンフレットとリーフレットを確認してみよう。これらを確認すれば、当該条例について概ね理解できるだろう。
・川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例 条例啓発パンフレット pamphlet.pdf (city.kawasaki.jp)
・川崎市差別のない人権尊重条例周知リーフレット leaflet_2p.pdf (city.kawasaki.jp)
また、川崎市のホームページには当該条例に関するQ&A形式の説明もあった。ファクトチェック対象に関連するQ&Aを以下で抜粋して紹介する。
川崎市:この条例では、ヘイトスピーチは犯罪とされているのですか。 (city.kawasaki.jp)
「この条例は、法律上の定義がなく、その範囲が明確ではない「ヘイトスピーチ」ではなく、法律に定義された「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」のうち、市内の公共の場所において、拡声機を用いる等の方法により、条例第12条各号に該当する内容のものを禁止しています。このうち罰則の対象となるのは、上記の禁止規定に違反し、市長から「勧告」を受け、さらに「命令(行政処分)」を受けたにもかかわらず、なお禁止規定に違反する行為を繰り返した場合となります」。
川崎市:どのような言動や表現が条例違反になりますか。 (city.kawasaki.jp)
条例では、市内の公共の場所で、拡声機(携帯用のものを含む。)を使用し、看板、プラカードその他これらに類する物を掲示し、又はビラ、パンフレットその他これらに類する物を配布することにより、本邦の域外にある国又は地域を特定し、当該国又は地域の出身であることを理由として、次の(1)~(3)のいずれかに該当する言動を行い、又は行わせることが禁止されています。
(1)本邦外出身者をその居住する地域から退去させることを煽動し、又は告知するもの
(2)本邦外出身者の生命、身体、自由、名誉又は財産に危害を加えることを煽動し、又は告知するもの
(3)本邦外出身者を人以外のものにたとえるなど、著しく侮辱するもの
具体的にどのような言動が該当するかについては、「○○人は国へ帰れ」、「○○人を始末しろ」、「○○人はゴキブリだ」といったものが例として挙げられますが、実際には、当該言動の背景、前後の文脈、趣旨等の諸事情を総合的に考慮して判断されることになります。すなわち、同一の文言であれば、常にその該当性の判断に変わりがないというものではなく、諸事情を勘案することにより、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」に該当するか否かの判断が異なることは当然あり得ます。
また、罰則の対象となるのは、上記の禁止規定に違反し、市長から「勧告」を受け、さらに「命令(行政処分)」を受けたにもかかわらず、なお禁止規定に違反する行為を繰り返した場合となりますので、1回違反しただけで罰則の対象となることはありません。
なお、インターネット上の投稿等については、禁止規定及び罰則は設けられておりません。
川崎市:川崎市内では、外国や外国人に関する批判は、全て禁止されるのですか。 (city.kawasaki.jp)
この条例では、「本邦の域外にある国又は地域を特定し、当該国又は地域の出身であることを理由として」、「本邦外出身者をその居住する地域から退去させることを煽動し、又は告知するもの」などを対象にしていますが、個別の事案については、「川崎市差別防止対策等審査会」の意見を聴いた上で、市長が、慎重に最終判断を行うことになります。
したがって、日常生活における言い争いや、会員のみの会合、単なる批判、悪口といったものや、歴史認識の表明、政治的な主張などについては、基本的に対象にしていません。
川崎市:北朝鮮や韓国の悪口を言ったら、罰金刑になるのですか。 (city.kawasaki.jp)
条例が対象としているのは、国のいわゆる「差別的言動解消法」で定められている「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」であり、その定義では、「本邦の域外にある国若しくは地域の出身である者又はその子孫であって適法に居住するもの(=本邦外出身者)」を対象に、「本邦の域外にある国又は地域の出身であること」を理由として地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動をいうとされています。したがって、外国政府に対する批判や悪口を言ったことをもって、処罰されることはありません。
川崎市:外国人から「その発言はヘイトである」と言われたら条例違反になってしまうのですか。 (city.kawasaki.jp)
この条例で禁止されている「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」という用語には、定義があり、相手がそう感じたら該当するというものではありません。
以上で挙げた川崎市によるパンフレット・リーフレットとQ&A形式の説明の内容を念頭に置きながら改めて上記画像内のイラストを見てみよう。
このイラストで示されている例が、「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」によって罰金や勧告が課されるような事案である可能性が低いということが分かるだろう。
イラスト内右の本邦出身者(赤い服)の「ここはみんなの遊び場だぞ」という発言は、当該条例が規定している 「(1)本邦外出身者をその居住する地域から退去させることを煽動し、又は告知するもの」にも「(2)本邦外出身者の生命、身体、自由、名誉又は財産に危害を加えることを煽動し、又は告知するもの」にも「(3)本邦外出身者を人以外のものにたとえるなど、著しく侮辱するもの」にもあたらないだろう。「差別的言動解消法」における『本邦外出身者に対する不当な差別的言動(=「本邦の域外にある国若しくは地域の出身である者又はその子孫であって適法に居住するもの(=本邦外出身者)」を対象に、「本邦の域外にある国又は地域の出身であること」を理由として地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動)』にもあたらないだろう。
また、先程の川崎市のQ&A形式の説明にもあったが、(1)~(3)のような定義が存在しているため、本邦外出身者が「ヘイト」と感じたらヘイト認定されるということもない。イラスト内の二人のやり取りは「日常生活における言い争い」の域を出ないだろう。
というか、そもそも「拡声機(携帯用のものを含む。)を使用し、看板、プラカードその他これらに類する物を掲示し、又はビラ、パンフレットその他これらに類する物を配布すること」による言動ではない。
さらに、『罰則の対象となるのは、上記の禁止規定に違反し、市長から「勧告」を受け、さらに「命令(行政処分)」を受けたにもかかわらず、なお禁止規定に違反する行為を繰り返した場合となりますので、1回違反しただけで罰則の対象となることはありません』という川崎市の回答において明言されている通り、(仮にイラスト内の本邦出身者の発言が条例違反であるとしても)「一回の違反で勧告も罰金も科される」というイラスト内にあるような事態はない。
以上を鑑みるに、今回検証した「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」についてのとある情報は ”誤った情報” であると評価できるだろう。
余談だが、今回検証した画像には「川崎市差別のない人権尊重まちづくり条例」と記述されているが、正しくは「川崎市差別のない人権尊重 ”の” まちづくり」である。
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