陰謀や超自然による説明はたいてい最も確からしい説明ではない。【最も確からしい相関関係を導き出す】

議論
スポンサーリンク

 今回のテーマは「最も確からしい相関関係を導き出す」である。引用から話を始めよう。

ルール20:最も確からしい説明を探す

 普通相関関係にはいくつもの説明が可能だ。したがって、相関関係に基づく良い論証をするためには、最も確からしい説明を探そう。

 第一に、つながりを埋めよう。すなわち、それぞれの説明がどのように意味を成すかをあげるのだ。

 (悪い例)

 独立系の映画会社は一般に大手の映画会社よりも創造性に富んだ映画をつくる。したがって、彼らの独立性が創造性を導く。

 たしかに相関関係はあるものの、この結論はやや唐突だ。つながりはどこにあるのだろう?

 (良い例)

 独立系の映画会社は一般に大手の映画会社よりも創造性に富んだ映画をつくる。独立系の映画会社では会社からの制約が少なく、多様な観客のために新機軸を試せることからして、これはうなずける話だ。独立系の映画会社はまた一般に低予算なので、創造的な試みが失敗に終わっても被害が少なくて済む。そのため、彼らの独立性は創造性を導くのだ。

 次に、自分が支持している説明だけでなく、別の説明についてもつながりを埋めてみよう。

 最後に、相関関係をもたらす見込みが最もありそうな説明を探そう。それには、より多くの情報が必要かもしれない。

 最も確からしい説明が、陰謀や超自然的な働きによるものであることはまずない。勿論、バミューダ・トライアングルで船や飛行機が数多く消息を絶っているのは超常現象によるものだという説に対して、絶対にあり得ないとは言い切れない。けれど、もっと単純で、自然な説明と比べれば、その蓋然性はかなり低い。バミューダ・トライアングルを往来する船や航空機の数は非常に多く、熱帯の気候は変化が激しく予想が難しい。しかも、ぞっとするような話が人から人へと語り継がれるうちに尾ひれがついてしまうのはよくあることなので、(言うなれば)信憑性が非常に高いとは言えない。

 同じように、劇的な出来事(例えばジョン・F・ケネディの暗殺やアメリカ同時多発テロ事件など)が起きたとき、矛盾や不可解な点にこだわって陰謀論を支持する人は多いが、そうした陰謀論による説明には、通常の説明がどれほど不完全であるにせよ、それよりもさらに多くの説明不能な部分がある(例えば、もっともらしい陰謀がなぜこの特定の形をとったのか?)。辻褄の合わない些細な出来事全てに邪悪な側面が潜んでいるに違いないなどと思ってはならない。基本を正しく理解することは十分難しい。そして、全ての事柄に答えが必要なわけではない。

(アンソニー・ウェストン著・古草秀子訳『論証のルールブック(第五版)』(ちくま学芸文庫、2018年) p86~p90)

 過去の記事においても度々言及しているが、相関関係は一つであるとは限らない。というか、たいてい複数あるものだ。なので、その中から「最も確からしい説明」を探す必要がある。そのための基本的な手順を説明していく。

 「第一に、つながりを埋めよう」。ここで提示されている悪い例においては、独立性という原因が創造性という結果をもたらす理由が明示されていない。たしかに、相関関係はありそうなのだが、「なぜ独立性は創造性を促進するのだろうか?」についての説明が欠けているので、説得力も乏しくなってしまっている。

 一方、良い例においては、独立系の映画会社の制約の少なさや低予算という特徴が原因となって、(大手の映画会社よりも)新機軸や創造的な試みに乗り出しやすくなるという結果をもたらしていることが明確に述べられている。悪い例よりも良い例の方が、説得力があることは明らかであろう。

 「次に、自分が支持している説明だけでなく、別の説明についてもつながりを埋めてみよう」。まず、ここでいう「自分が支持している説明」とは、上記の例で言えば、「独立系の映画会社の制約の少なさや低予算という特徴が原因となって、新機軸や創造的な試みに乗り出しやすくなるという結果をもたらしていること」である。これとは異なる別の説明・相関関係についても記述することで、より説得力のある論証が可能になる。

 例えば、創造性を持っている映画製作者が独立を志向する傾向にある(創造性という原因が独立性という結果をもたらしている)のかもしれないし、より自由な表現を求めることが独立性と創造性の発揮に結実する(自由な表現の追求という原因が独立性と創造性という結果をもたらしている)のかもしれない。このように、複数の説明・相関関係について言及することによって、より多角的な視点やより広範な視野を確保でき、それゆえ、より強力な論証を作成することができるだろう。

 「最後に、相関関係をもたらす見込みが最もありそうな説明を探そう」。そうするためには、「より多くの情報が必要」になる。上記の例で言えば、独立系の映画会社が大手の映画会社よりも被ることが少ないという、その「制約」とは一体どのようなものなのか。その制約には一体どのような制約が含まれているのか。新機軸や創造的な試みの例としては一体どのようなものがあるのか。独立系の映画会社の予算は大手の映画会社のそれよりもどれほど低予算なのか。創造性で名を馳せていた映画製作者が独立を志向する傾向があるのか。そのような独立の例としてはどのようなものがあるのか。などなどについて調査する必要があるだろう(記事の本筋ではないが、「独立性」や「創造性」という用語の定義も忘れずに)。これらを調査することで得た情報を慎重に検討することによって、最も確からしい説明・相関関係を導き出そう。

 そして、注意すべきは「最も確からしい説明が、陰謀や超自然的な働きによるものであることはまずない」ということだ。勿論、陰謀論や都市伝説や超常現象として語られることが嘘・間違いであると断言することはできない。以前の記事においても述べた通り、これらは基本的に真偽不明であり、正しいか間違っているかを我々が知ったり判断したりすることはできない。それゆえ、我々は陰謀論や都市伝説や超常現象と呼称されるものに対しては、肯定(賛成)も否定(反対)もしない中立的な立場を採るべきなのだ。

 とはいえ、真偽不明で、真偽を確かめることも不可能な陰謀論や都市伝説や超常現象による説明は「もっと単純で自然な説明と比べれば、その蓋然性はかなり低い」し、信憑性も高くはない。このことは、引用内のバミューダ・トライアングルでの事故多発に関する単純な説明を読んでもらえれば分かるだろう。それに、往々にして、恐ろしい話には伝言・伝聞の過程で尾ひれがついていくものだ。

 また、劇的な出来事に対する「陰謀論による説明には、通常の説明がどれほど不完全であるにせよ、それよりもさらに多くの説明不能な部分がある」ものだ。ジョン・F・ケネディはある公的機関によって殺されたとする声は多いが、なぜ彼はダラス市の公衆の面前で暗殺される必要があったのか?(公的機関による犯行であるならば、暗殺するにしてももっと目立たない場所で暗殺して、大統領の死は病死として公表できるはずなのに。なぜこっちの方を選ばなかったのか?と個人的には思うのだが)。同時多発テロは開戦の口実を得たいアメリカ政府の自作自演だとする声も多いが、開戦の口実を得るために、なぜ大量の自国人を殺すことになる手段を採らなければいけなかったのか?(それこそ、開戦の口実を得たいのなら敵国に大量破壊兵器開発の疑いをかけるという手段もあろうに)。などという疑問が投げかけられよう(あくまで個人的な疑問ではあるが)。勿論、真偽のほどは私には分からないが。

 「辻褄の合わない些細な出来事全てに邪悪な側面が潜んでいるに違いないなどと思ってはならない。基本を正しく理解することは十分難しい。そして、全ての事柄に答えが必要なわけではない」。この言葉は覚えておいていただきたい。

 勿論、世界には多くの大きな邪悪が存在するのかもしれない。私自身、そのように思うことも多々ある。しかしながら、全てに邪悪な背景があるわけではないとも思う(それが事実であるか否かは分からないが)。全ての事柄が、「原因と結果」という我々人間の恣意的なパズルに余すところなくピッタリとはまるピースであるというわけではないのだ。「原因と結果」という概念・見方は我々人間の分かりやすさのためにあるということを忘れずに。

 今回はここまでだ。今回覚えておいてほしいのは「相関関係における原因と結果のつながりをできるだけ詳細に説明し、それとは異なる別の相関関係についても同じように説明し、それらの説明を豊富な情報で裏付けることで、最も確からしい相関関係を導き出すことができる。また、最も確からしい説明が陰謀や超常現象によるものであることはまずない」ということである。

 皆さんがインターネットで怪しいと思った情報があれば、ぜひこちらへ投稿お願いします。

 また、参考文献および関連本はこちら

タイトルとURLをコピーしました