あなたはどこへ向かおうとしているのか?どのようにしてそこに辿り着くのか?【論証文の流れ】

議論
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 今回のテーマは「論証文の流れ」である。引用から話を始めよう。分かりやすくするために、引用内の文言を改変している。

ルール36:アウトラインが重要

 第一に、全体を要約する。既にアウトラインを考えた基本となる論証を、今度は一つの簡潔なパラグラフにまとめるのだ。

 現在では、宇宙に数多くの太陽系があることがわかってきている。それらの多くには地球と同じような惑星が含まれていると、私はこの論文で論じる。それらの惑星の多くに生命が存在する可能性がある。そこで、地球以外の惑星にも生命が存在する可能性は高いといえよう。

 ここでの目的は読者におおまかな全体像を与えることだ。あなたがどこへ向かっているのか、そしてどのようにしてそこへ辿り着くのか、明確な全体像だ。

 次に、基本的な論証の前提の一つ一つを広げて、前提の再提示で始まるパラグラフとし、各前提の裏付けを加えていく。

 まずは、宇宙には私たちの太陽系以外にも数多くの太陽系があるという驚くべき事実を考えよう。2017年2月17日現在、パリ天文台の天文学ウェブサイト「太陽系外惑星エンサイクロペディア」は、惑星系を構成するものを含む3577個の太陽系外惑星をリストにあげており(http://exoplanet.eu/)……

 次に、いくつかの例について検討する。最近の興味深い発見など。もっと長い文章なら、公表しているリストも良いだろうし、発見するための手法について書くのもいいだろう。全体の分量や、どのくらい詳細な情報を読み手が求め、期待しているかによる。そして、基本的な前提について、同じように説明したり裏付けたりする。

 かなり複雑な裏付けを必要とする前提もあるだろう。それらも全く同じように扱う。まず、前提を述べてから、それが中心となる論証で果たす役割を読み手に知らせる。次に、その前提のための論証をまとめる(つまり、それをさらなる論証の結論として使う)。そして、各前提に対してパラグラフを一つほど使って論証を書く。

 なぜ、他の太陽系に地球のような惑星が含まれていると考えられるのか?天文学者は類推による興味深い論証を提示する。彼らは、私たちの太陽系が巨大ガス惑星から、岩だらけで水があり生命の存在に適した惑星に至るまで多種多様な惑星から成っていると指摘する。さらに、知られている限り、他の太陽系も私たちの太陽系に似ていると続ける。したがって、別の太陽系にも多種多様な惑星があって、その中には岩だらけで水があり生命の存在に適している惑星が含まれている可能性は高いと、彼らは結論づけている。

 さて、今度はこれらのポイントを説明し、裏付ける必要があるかもしれない。場合によっては、一つか二つのパラグラフを使うかもしれない。例えば、私たちの太陽系の惑星が持つ多様性について、読み手の理解を促すこともできるだろうし、既に知られている様々な太陽系外惑星について伝えることもできるだろう。

 これがどれほど長く、どれほど複雑になるかによって、基本的論証に戻るときに読み手を方向転換させる必要が生じるかもしれない。ロードマップを広げて読み手に思い出してもらう(あなた自身も再確認するのだ)。結論へと向かう道のりで、今はどの辺まで来ているのかを。

 宇宙には他にも太陽系が存在することは既に知られており、そこには地球のような惑星が存在する可能性が高いようだ。最後の重要な前提はこうだ。もし地球と同じような惑星があるのなら、その中には生命が存在する惑星がある可能性が高い。

 アウトラインを書く中で、この前提のための論証も作っているだろう、そして、ようやくあなたはスムーズにバッターボックスに立てるのだ。

 これら全ての論証において、首尾一貫した用語を使うことに留意しよう。用語が一貫して前提の一つ一つがうまくつながってこそ、文章全体のまとまりが良くなる。

(アンソニー・ウェストン著・古草秀子訳『論証のルールブック(第五版)』(ちくま学芸文庫、2018年) p134~p138)

 かなり長い引用になってしまったが、この引用内の内容は、論証文を作成する上でとてもためになると思うので、よく読んで欲しい。では、若干のアレンジを加えながら引用内の内容をまとめてみよう。

1.論証文全体を要約する。

 「あなたがどこへ向かっているか(=結論が何であるか)」「どのようにしてそこに辿り着くのか(=結論を裏付ける前提・根拠・推論が何であるか)」を明らかにし、明確な全体像を提示する。

2.論証を構成する前提の一つ一つを裏付けていく。

 まず、その前提が「論証(全体の中)で果たす役割」について説明してから、1~2パラグラフを費やしてその前提を論証する。いくつかの知識や推論、例、発見、研究手法などを提示することによって前提を裏付ける。

3.各前提の論証から基本的論証へ戻る時や次のパラグラフ(段落)に進む時にロードマップを提示する。

 (聞き手のためにも自分のためにも)結論へと向かう道のりにおける現在地点を確認する。次のパラグラフ(段落)に進む際やロードマップを提示する際には「サインポスト(道しるべ、手掛かり)」を有効に使おう。「サインポスト」については「自分の考えを他者に正確に伝えることを試行錯誤しよう | ギロンバ-議論場- (gironba.com)」という記事でも述べている。是非参考にしていただきたい。

4.論証全体を通して、首尾一貫した用語を使う。

 論証文に限らず、一般的に文章を書くときは同じ用語を使い続けることが好ましい。そうすることで、各パラグラフ(段落)のつながりが自然になり、文章全体にまとまりがもたらされる。また、勿論だが、論証に用いる用語を最初に定義したら、それ以降は用語の定義を変更してはならない。このことについては「用語とその定義、文章スタイルを途中で変更しない | ギロンバ-議論場- (gironba.com)」という記事で詳しく述べているので、是非参考にしていただきたい。

 

 特に大事なのが、「あなたがどこへ向かっているか(=結論が何であるか)」と「どのようにしてそこに辿り着くのか(=結論を裏付ける前提・根拠・推論が何であるか)」を論証の最初に明らかにし、論証する最中にそれらを常に念頭に置いておくことである。そうすることで、聴衆に対してより分かりやすいロードマップを提示できるようになるのは勿論のこと、論者自身も議論の主題(トピック)・論点や論証の目的意識を見失いにくくなる。

 また、結論とその結論を裏付ける前提・根拠・推論を聴衆に対して明確に説明しておくことで、聴衆は、各前提が論証全体の中で果たす役割について理解しやすくなり、それぞれの前提を適切に評価できるようになる。聴衆が論者の論証の内容や意図をよく理解している議論は、主題・論点についての深い理解に資するような良い反論が出てくる議論である。そのような議論においては、論者も聴衆も共に論証を磨き上げることができるし、主題・論点となっている事象・問題に関する洞察も深めることができる。

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