夏は暑いから長袖を着る人が多い?/大きな主語を見かけたときは身構えよ【不合理な推論/過度の一般化】

詭弁・誤謬
スポンサーリンク

 今回のテーマは「不合理な推論/過度の一般化」である。まずは「不合理な推論」という誤謬・詭弁について説明しよう。以下は引用である。

不合理な推論

 前提となる証拠に矛盾するような、誤った結論を導くこと。悪い論証に対してしばしば使われえる用語。論証のどこが誤っているかをはっきりさせよう。

(アンソニー・ウェストン著・古草秀子訳『論証のルールブック(第五版)』(ちくま学芸文庫、2018年) p189)

 論証とは、前提から推論を経て結論を導き出すプロセスである。この「不合理な推論」という誤謬・詭弁は、前提そのものは誤りではないのだが、その前提をもとにした推論が誤っていて、それゆえに誤った結論を導き出しているというものである。ここで一応、「推論」の辞書的な意味を確認しておこう。「推論」とは、「ある事実をもとにして、未知の事柄をおしはかり論じること」(推論とは何? Weblio辞書)である。この辞書的な意味にある「ある事実」という箇所は、論証における(確かな)前提に相当すると思っていただきたい。

 論証を完成させたときに「うーん、何か結論が変だなぁ」「前提と結論が噛み合っている感じがしないなぁ」と思ったら、まずは前提、推論、結論のそれぞれを疑ってみよう。結論が間違っているなぁと思う場合には、推論を特に怪しむべきである。推論の誤りは結論の誤りに直結するので、「不合理な推論」を行っていないかを入念にチェックすることは重要な作業であると言えよう。結論が間違っているなぁと感じるとき、実は推論が誤っていたということは割と多い。

 一つ例を挙げてみよう。

(前提1)夏は暑い。

(前提2) 暑い時期には半袖を着る人が多い。

(結論)夏に長袖を着る人が多い。

 この例の論証が誤りであることは明白だろう。では、どこが正しくて、どこが誤っているのだろうか?とりあえず、(前提1)と(前提2)が正しく、(結論)が誤りであるということは分かりやすいのではないか。となれば、二つの前提と結論との間にある “推論” が誤っていると考えることができる。「夏は暑い」と「暑い時期には半袖を着る人が多い」という二つの正しい前提から、「夏に長袖を着る人が多い」という結論は到底導き出せそうにない。おそらく、ほとんどの人がそのように思っているはずだ。というか、上記の例を見て、違和感を抱いたり、「極端で馬鹿馬鹿しい例だなぁ」と思ったりしたはずだ。なぜか?それは、ほとんどの人が、二つの前提と結論の間に「不合理な推論」があると直観しているからだ。

 この通り、人間には「不合理な推論」を直観するという能力が備わっているのだ。みなさん、自信を持って欲しい。あなた方は、冷静である限りにおいて、自他の論の誤りを見抜くことができるのだ。以上のような要領であらゆる論証(自他の論証など)、あらゆる情報を評価していってほしい。また、「不合理な推論」の存在を直観する能力は場数を踏むことで涵養できるものなので、みんなで鍛えていきましょう。

 次は「過度の一般化」という誤謬・詭弁について説明する。以下は引用である。

過度の一般化

 例の数が不十分なのに一般化してしまうこと。あなたの大学の友人全員がスポーツマンや経営学専攻や菜食主義者だからといって、同級生全員がスポーツマンや経営学専攻や菜食主義者だとは言えない。例の数がもっと多いとしても、明確に代表的でない限りは一般化できない。

(アンソニー・ウェストン著・古草秀子訳『論証のルールブック(第五版)』(ちくま学芸文庫、2018年) p189)

 「一般化」の概要やルール、注意点については、「議論」のページに掲載されている記事においても述べられている。

 事実よりも分かりやすさのための「一般化」。その注意点 | ギロンバ-議論場- (gironba.com)

 複数の例やサンプルで一般化を裏付ける | ギロンバ-議論場- (gironba.com)

 一般化とサンプルの偏りに気を付けて | ギロンバ-議論場- (gironba.com)

 以上が該当の記事である。これらの記事を是非参考にしていただきたい。

 まず、「一般化」とは何かについておさらいしよう。「一般化」とは、「論理学で、さまざまな事物に共通する性質を抽象し、一つの概念にまとめること」(一般化とは – 「一般化」の意味ならWeblio辞書)である。一般化するためには、代表的なサンプルを一定数用意する必要がある。一般化するためにサンプルがどれだけ必要であるかは、一般化する対象範囲の程度によって異なるので、「何個必要です」と一概に言うことはできない。しかし、基本的にはサンプルは一つでは足りず、二つ以上は必要だろう。

 では、本題に入ろう。「過度の一般化」とは、「例の数が不十分なのに一般化してしまう」という誤謬・詭弁である。先程、「一般化するためには、代表的なサンプルを一定数用意する必要がある」と言ったが、その「一定数」未満の数のサンプル(例)で一般化することが誤りであるということだ。(あなたが同級生全員と友人ではないという設定において)あなたの大学の友人全員が菜食主義者だからといって、「(あなたの)同級生全員が菜食主義者である」と一般化するのは不適切である。なぜなら、「同級生全員」という一般化をするには、「あなたの大学の友人全員」というサンプルだけでは足りないからだ。また、あなた自身を含め、「あなたの友人」という集団が菜食主義志向的な集団である可能性もある。この場合、「あなたの友人」は代表的なサンプルとは言えない。このような理由から、「友人全員」のことを「同級生全員」と称すという「過度の一般化」を犯していると言えるのだ。

 「同級生“全員”」という一般化をしたいのなら、友人だけでなく、同級生全員に「あなたは菜食主義者ですか?」と質問する必要がある。そして、同級生全員から「私は菜食主義者である」という答えを取り付けなければならない(それが可能なのであれば)。ここまでできてようやく「同級生全員が菜食主義者である」と一般化することができる。「同級生は“概ね”菜食主義者である」という一般化だと、「同級生全員」よりも手間も難易度も緩和される。とはいえ、友人だけでなく、多くの同級生に質問して、「私は菜食主義者である」という回答=サンプルを、「概ね」と言っても差し支えがない分量だけ得なければならない。

 その際に注意すべきは、「一般化に利用するサンプルは代表的でなければならない」ということである。「代表的である」とは、サンプルに偏りがないということである。上記の例で言えば、「あなたは菜食主義者ですか?」という質問に答える回答者たちが、 “ランダム” に選出されており、回答者自身の判断で質問・アンケートを受けるか否かを決めることができないという条件下で得られたサンプルが「代表的なサンプル」とみなすことができるだろう。

 「ランダムに選出する」とは、特定の回答(上記の例に則れば、「菜食主義者である」という回答)をしやすい集団に集中して質問することなく、大学のキャンパスを歩いている人たちに無差別に質問したりするということだ。例えば、「菜食主義者である」という回答=サンプルを多く収集できることが予想される集団としては、「菜食主義者サークル」や「動物の権利保護団体」や「動物愛護団体」などが思いつく。また、菜食主義者から構成される仲良し集団もあるかもしれない。そのような集団はサンプルとしては不適切だ。なぜなら、そのような集団は「同級生」という集団を “代表している” とはみなせないからだ。ちなみに、質問やアンケートをする際には、キャンパスを一緒に歩いている友人集団の全構成員を回答者に指定してはならない。必ず集団の中から一人を選出しよう。なぜなら、先述の「菜食主義者から構成される仲良し集団」のように、友人関係というのは何らかの共通性や類似性や傾向性に基づくからである。つまり、友人集団が「偏っている集団」だからである。このことについては、「類は友を呼ぶ」という言葉が事態を端的に表している。

 「回答者自身の判断で質問・アンケートを受けるか否かを決めることができない」という箇所について説明しよう。なぜ、質問やアンケートに回答するか否かを回答者自身が判断できてはいけないのか。なぜなら、回答者が回答するか否かを選択できてしまうと、「質問やアンケートに積極的に答えたい人」の回答=サンプルばかりが集まってしまうからだ。そのようなサンプルがたくさん集まっても「偏っている」データにしかならない。「質問やアンケートに積極的に答えたい人」は往々にして何らかの強い主張を持っていて、上記の例の場合で言えば、おそらく菜食主義という主張を強く持っている「菜食主義者」である可能性が高いだろう。そのような人はやはり「同級生」という集団を代表しているとはみなせないのだ。

 以上のような条件を満たしていない一般化は「過度の一般化」を犯している可能性が高いと言えるだろう。「過度の一般化」は世の中でも非常に頻繁に見受けられるメジャーな誤謬・詭弁の一つである。「男は」「女は」「大人は」「若者は」「子供は」「日本人は」「アメリカ人は」「都会の人は」「地方の人は」「公務員は」「会社員は」などの ”大きな主語” を見聞きした際は、身構えてほしい。大きな主語のほとんどは「過度の一般化」であると思った方が良い。また、「過度の一般化」は「レッテル張り」という現象として現れることも非常に多い。賢明な読者のみなさんはそんなものに騙されないとは思うが、冷静に対応・解釈するようにしよう。

 皆さんがインターネットで怪しいと思った情報があれば、ぜひこちらへ投稿お願いします。

 また、参考文献および関連本はこちら

タイトルとURLをコピーしました